握られた八木の拳がグイッとこちらに向けられる。
「手出せって。」
状況が飲み込めずしばらくキョトンとしていたが、言われた通り素直に八木の方に片手を差し出した。
(何だろう。)
小さくて軽い。手のひらに触れた部分が少しヒンヤリとする。
置かれた八木の手がそっと離れた瞬間、ドクンと心臓が波打った。
驚きと嬉しさで言葉が上手く出てこない。
「こっ、これって…」
「うちの鍵。最近遅くなるとき多いし、待たせてるのも悪いから。キャンパスもこっちからの方が近いだろ。」
(合鍵もらっちゃった…)
手のひらにちょこんと乗った何も付いていない銀色の鍵に目が釘漬けになる。
子供の頃、夏になると友達と一緒に海辺で綺麗な石を探すのに夢中になった。
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