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    クロバト

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    クロバト

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    レン散歩「お弁当もった!水筒も持った!おやつヨシッ!」
     レンはリュックを背負うと玄関へ走った。
    「散歩してくる~~~!」
    「気を付けてね」
     奏はレンの背中を見送る。
     成人女性が散歩する荷物ではないが、どこかで誰かと遊んでいるようなので奏は何も言わなかった。




     レンは秘密のトンネルを見つけていた。
     場所は秘密だが山中に洞窟のようなトンネルがあるのだ。
     レン以外は自然にできた洞窟と判断するだろうが、その洞窟の長さの異常性に気づいたならばレンのように「自然にできたトンネルか~」などという判断はせず、近づかないようにするだろう。
     レンにも恐怖心はあるがこういうときには全く違和感も感じることもないようで好奇心で洞窟の中を探索した。
     明かりも持たずに突撃である。夜目が利くというそれだけで駆け抜けた。
     気づくと真っ黒い森の中(のちにここを暗黒の森というまんまな名前であるということを知る)にいて、レンは直感でどんどん進んでいった。微かな川の音に気づいてそこへ向かうと暗くて対岸が視えない川と渡し船が視えてきた。
    「おじちゃん!川の向こう送ってくれるの?」
    『六文だよ』
     ぼろぼろの布で身を包んだ船頭が言う。声がノイズ混じりで男なのか女なのか判断がつかない。
     明らかに人間の声帯で出せる音ではないのだが、レンは「風邪引いてるのかな…」ぐらいにしか思わなかった。
     ポケットを漁り出てきた10円玉を見せる。
    『それじゃダメだ。乗せれないからね』
    「えーっこれもお金なのに…」
    『決まってるから』
    「そんな~…」
     他に船はないかとレンはとぼとぼ歩きながら見渡していると何やら騒がしい船もあった。
     船頭が怒鳴りながらのたのたしてる人たちを櫂で突きながら船に押し込んでいる。
     どうもお金は取っていないらしい。
    「おじちゃん、あたしも乗りたい」
    『お前はダメ!生きてるじゃないか、この船は亡者を乗せる船だ。仕事の邪魔になるからあっちにいけ』
     指をさす方向を向くと明かりが点々としていて少ないながらもお店があるようだ。
     レンは「亡者」という言葉に疑問を抱くことはなかった、レンの頭の中はアッチのお店に行こう!に切り替わっていたためである。
     スキップのようなダッシュでそこへ向かっていると古びた個人のお店(雑貨屋だろうか?)が数件と真新しいコンビニがはっきり見えてくる。コンビニの前には赤い物体が落ちていた。
     レンは足を止めてその物体を見る。
     よく見ると人のようであった、長い赤髪とボロボロの赤い服で赤い塊に見えていただけであった。
    「ホームレスのおじちゃんかな…でもこんなところで寝てると風邪ひくよ」
    『ちゃうねんな…寝てるけどな、寝たくて寝てるんちゃうんよな…』

     これがレンと、凶悪子猫火車軍団にボコボコにされて放置されていた赤鬼のファーストコンタクトであった。








    「赤鬼のおじちゃーん!おにぎりたべよー!」
     レンはリュックからお弁当を出してくる。
     ヘルマート(コンビニの名前)の駐車場で堂々と自前の弁当である。
     店員に怒られたら止めようかと思うが店員は店から出れないらしい、怒られずラッキーであった。
     レンも仕方がないのだ。奏が「知らない場所で現地調達したものは食べちゃダメだよ」とレンに言い聞かせているのでそれを守っているのである。
     レンだってヘルチキが食べたい。でも我慢しているのだ。
    『お前飽きずによくくるなぁ、ここなんもないだろ』
    「猫ちゃんいるよ?」
    『かわいくないのに…』
    『シャーッ!!!』
     赤鬼の失言に子猫火車の威嚇。赤鬼はビクっとビビるがレンの手前ちょっと踏ん張った。
    「猫ちゃんハーイ」
     唐揚げをぽいぽい与え始めるレン。
     赤鬼は何も言わずおにぎりを食べる。
    「おじちゃんもなんもないのにここにいて暇じゃない?」
    『うん…まぁ…本当は…向こう側の奥へ行かないといけなかったような気がするんだが…』
     視線は川の方向―――そのもっと遠くへ行くつもりだったのかもしれない。
    『反対方向にきちゃって、まぁ…外に出るか悩んでる最中?』
    「出ればいいじゃない?」
    『…そのうちにな。外っていいとこか?』
    「いいとこだよー!楽しい所いっぱいあるし、おじちゃんにも紹介してあげるよレンの秘密の場所。
     ここも秘密の場所のひとつなんだけどねー!」
    『異界歩き回ってるのか?』
    「ん?ただの散歩だよ?」
    『……』
     赤鬼は神妙な顔つきになる。レンが得体しれない…自分も大概なのだが。
    「今度外に出てみようよ!」
     屈託のない笑顔を向けてくる。
     赤鬼は曖昧な頷きをした。
     レンは散歩のつもりなのでお弁当を食べ終わると解散である。
     赤鬼はレンがやってきた洞窟までレンを送り届ける。
     暗黒の森も地獄と隣接している異界である。化け物が出てくる可能性があるのだがレンは出会ったことがない。
    「おじちゃんまたねー!」
     レンはいつもの調子で洞窟の中へ突撃帰還していく。
     赤鬼はそれを見送って、しばし洞窟を見続ける。
     踏み出せないのだ、恐ろしくて。外の世界へ戻りたいという気持ちがないわけではない。
     ただ地獄に堕ちる前に何をやっていたのかも忘れてしまった。
     それを思い出したときに自分は耐えきれるのか―――不安が外へ行くのを拒む。
     逆に地獄の奥へ行くのもこれもまた躊躇ってしまう。
     恐ろしいものが待っている気がする。
     今も奈落の底から自分を見つめている気がする。
     手が伸びてくる気がする。白くて大きな、自分を鷲掴んで地獄へ引きずり込んできたあの手が―――
    「神よ…神よ…」
     赤鬼は人骨で作った十字架を握りしめて救いを求めるのである。


     


     レンは他にも回って家に帰宅する。
    「ただいまーーーー!」
    「おかえり、レン」
     奏が出迎えてくれる。
     そのあったかさがレンは好きで、毎日散歩するのである。
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