巫女と妖狐〜ハロウィンの話〜猫猫は近所に買い物出た。
街はハロウィン1色にオレンジと紫と黒の配色がやたらと目立つ。
そこに何故か、神社にいる居候と化している妖狐がついてきた。
「なんでついてきた?」
猫猫が半眼に瑞月を見る。
猫猫よりも一回り以上大きいはずの瑞月が、小娘の言葉にしゅんと肩を落としいじけている。
「…な……だめなのか?」
「面白くもないでしょうに」
「人間の世界の食べ物は美味い」
「………偵察ですか。それなら、一人で行けばいいものを」
猫猫は瑞月を見上げる。
「つれない反応だな」
瑞月は猫猫と離れる気はないのだろう、いじける割には、猫猫との距離感は猫猫の隣と変わらず近い。
長寿の妖狐様に、呪われるというのも嫌なので、猫猫は結局諦めて、嘆息すると前を向く。
「邪魔だけはしないでくださいよ」
ジト目で瑞月を見れど、猫猫の気持ちなんて我感せず、瑞月は満面の笑みを浮べていた。
なんとも破壊力抜群の笑みである。
近くにいた、女子高校生から、黄色い歓声がわく。
やっぱりだぁー。
猫猫は想像していた事態にもはや溜息しかでないわけで。
「なんだ?」
一転、猫猫に真顔で聞いてくる瑞月に、もう何も言うまいと思う。余計にややこしくなりそうな気がしたから。
猫猫は、首を何度か横に振り、「何でもないです」と返しただけだった。
己の美貌なんてきっと、気づいちゃいないのだ。言うだけ無駄である。
猫猫の視界に入って来たのは、白いもふもふの………。
(しっぽっっ……!!)
ぎょっとして猫猫が隣をみれば耳、尻尾を一本だが出してしまっている瑞月である。
耳は可愛らしい白い狼の耳がぴょこんと漆黒の髪の間からのぞく。
さすがに、この事態は猫猫とて慌てる。
猫猫の視線に気づいた瑞月は一瞬きょとんとした瞳を呑気にも猫猫に見せてくれる。
ここは妖の住む天の上とは違うといのに。
「………ん。どうした?」
「ちょっ……耳が…尻尾まで…さっさとしまって」
瑞月は気づいているのか、いないのか、さわやかな笑顔を猫猫に向けて来る始末である。
そんな無意味な瑞月とのやり取りをしていると。
子供がキラキラの瞳と共に瑞月と猫猫のもとへ遠慮がちに寄って来る。
「それはハロウィン仮装?」
「尻尾!!」
「猫さんなの?」
「もふもふっ!!」
中々の人気である。子供だけでなく、大人も結構いる。
それはまるでアイドルに群がるファンのような。
もしくは…………。
実際は500歳超えの大妖怪なんだけどなぁ。
猫猫は、心底楽しそうな瑞月をなんともいえない瞳を向けるに至る。
猫猫は多少冷めてきた視線を周囲に向けて、気づいた。
瑞月の他にも、ドラキュラやジャック・オ・ランタン、魔女など、仮装を楽しむ人達がいたのだと。
(そうか、今日は10月31日)
瑞月は気をよくしたのか、長い爪の先に青白く炎を出している。
鬼火まで……。
化け物って言われて石投げられても知らないからな。
だが、それは猫猫の思惑からは大きくそれていて、大道芸人よろしく瑞月はギャラリーに一礼している。
瑞月の笑顔は周囲へ伝播し、皆の表情を笑顔に変えてゆく。
「お兄ちゃんすごいね。手品師さんなの?」
「そうだな。こんなことも出来るぞ」
尻尾が2本に増える。耳も、少し小さくなったような気がしないでもない。
猫又である。
「すご〜い」
「もっともっと !」
子供達からわく可愛らしい歓声。
(大丈夫そうだ)
猫猫は、心底楽しそうな珍獣の隣で、笑顔のままに眺めていた。