鴆と藍星の小話望月の夜。
灯りを持たず離舎にやってくるのは鴆である。
薬学の勉強をしていた藍星の元にやってきたのは鴆だった。
蟲の類は苦手なのに。
死体に生えた茸とか、蛙とか、蝉の抜け殻とか。
勉強とは知りつつも、思わず藍星は背に寒いものを感じて、身震いしてしまう。
そういえば、慧玲も平然と蜘蛛やら蝉やら触っており、薬研で挽いている。
ある意味似た者同士である。
「食医殿の侍女殿は熱心だね」
「…………」
「何なに、蜘蛛」
言いながら蜘蛛を出す鴆。
藍星は悲鳴を必死に飲み込む。
次は蛇。
顔前に迫る蛇に耐える。
心配かけられないから。
次は………
何も起こらなかった。
何故か、鴆に頭を撫でられている。
「強くなったようだね」
「誰のせいだと」
鴆を不敬にも睨めば、鴆はただ笑っていた。
「お早いお帰りですね。喧嘩でもなさったのですか?」
「いいや、眠ってしまってね」
「それは残念でしたね」
「今宵こそは、慧玲の華を散らすつもりだったよ」
「は?」
「どうかした?」
「あれだけ仲良いのにまだ、一線超えていない、と?」
「そうだよ。賢い君なら知ってるのかと思ってたけど。違った、ようだね」
「…………なんか、以外でした」
鴆は苦笑気味に笑っていた。
「慧玲が望まないのであれば俺は無理強いする気はないよ。あっちから、迫ってきたら、すべもなく慧玲の全てをもらうけどね」
「ごちそうさまでした。大丈夫ですよ、慧玲様は鴆様しかみていませんよ」
「」