心の闇を照らす光のように瑞月にとって母、皇太后は母であり国母であり、少なからず畏怖の対象でもあった。
ある日、瑞月は皇帝に恨み言を口にする姿を偶然にも見てしまった。
「憎い、あのひとが憎い」と、その顔は瑞月のトラウマとして残るには充分である。表面的には笑って甘えて、ただ心の中にはあの日見た母の顔が消えてはくれなかった。数少ない父、皇帝との邂逅も、母は怖い顔で帝を見ていて、抱きしめてくれた母母は少し震えていた。
国母の母には瑞月はわがままも甘えの言葉も飲み込んで、母親ではあれど、水蓮のように甘えるのはできなかった。同時期に、自分の周りからお気に入りになったおもちゃ達がなくなり、しばらくして瑞月はお気に入りだとバレてしまえばまた取り上げられてしまうと思って、瑞月は周りに本心を隠すようになった。
僕は何もいらないんだ。
そう自分に諭すようになり、それでも好きなものはバレないようにと表面的には、無関心を装った。
皇位から逃げた後宮では出会った一つしたの女の子は、瑞月の心を読み、毛虫を見るかのような目を向けてくる。
この娘は、見目に惑わされないのだと。
気づけば恋に落ちて、酔った勢いでお手つきにしていた。
猫猫は、出会った頃と基本的には変わらず、受け入れたのは自分の意思だと言った。
瑞月は猫猫を娶った。
それを示すかのように、猫猫は吾子が生まれても変わらず、瑞月の側にいる。
幼い頃に患った、周囲への不安と強迫観念は瑞月の完全には消えなかった。
そんな幼い頃の記憶は悪戯に月様の表在意識に上がって来て、苛まれる。不意に1〜2歳ごろの我が子に手に触れられて、悪夢のような記憶とそれは重なり、思わず子供の手を払ってしまった。
月の強張った表情に吾子は逃げてゆく。猫猫元に。猫猫は、選択の廟の時の落ち込みにリンクしてすぐに夫の異変に気づく。猫猫は吾子には父さまも大変だと諭す、月様には話を聞いてのカウンセリング的なね。
我が子に当たってしまったことを後悔する月様。吾子との距離がわからない月は仕事に打ち込みすぎて倒れてしまう。
子供との距離が分からず瑞月の子供に対する態度はぎこちない。
「莫迦ですねぇ」
「ただ、正直にごめんと優しく抱きしめて上げればいいんですよ」と猫猫は言う。
決意して月様の元にやって来た吾子。「父さま大丈夫?」緊張混じりに伸ばしてきた我が子の僅かに震えた手。それは、過去に母親に伸ばそうとした自分と重なって、月は目頭が熱くなる。
(あの時の自分も母にこんな瞳していたのだろうかと)
引っ込め掛けた吾子の手を今度は月は迷わず引き寄せて抱きしめる
「ごめん。ごめんな。父が悪かった。」って。
強張っていた吾子も瑞月にとびっきりの笑顔をくれて、和解する。
猫猫は遠目にそれを見ていた、世話が焼けると吾子に入れ知恵したのは猫猫だった。
(自分も親には恵まれてはいないが、精神的に強いのは母の猫猫だと思う)