新年度の一幕猫猫と瑞月は付き合って半年。
2年生の初登校日だ。
クラス分けの紙を大人数に混じり眺め自分の名前を探す
「猫猫、こっち」
2年3組
大山加奈
華 瑞月
漢 猫猫
木村優斗
写真を撮る瑞月に猫猫はそれを半眼に見てしまう。
「見ろ!!」
撮った写真画面を猫猫の方に向け、瑞月は満面の笑みで見てくる。
その笑みに当てられたのか猫猫の側にいた複数の女子は赤く頬を染めている。
なんて顔してんだ。
無駄に顔はいいからな、この男。
おまけに性格も悪くないとくれば、それは学校のアイドルそのものである。
そんな学校のアイドルの隣に彼女として居たい女子は多けれど、この男のお眼鏡に叶うのは学校に一人しかいなかった。
それが、幼馴染でもある猫猫なのだと言う。
奇特な男である。
どんな状況でも猫猫は変わる気はなく、淡々と瑞月を見返す。
「はいはいはい、見ればわかる。同じクラスのようだね」
「並び順も隣だ。こんないいことがあるなんてツイてると思わないか」
幸せオーラ全開の瑞月の笑みはさらに被害者を増やし、猫猫はいたたまれなくなって、猫猫の表情は曇ってゆく。
いつまでもここに居ては危険である。
「邪魔になる。私は先に行くので、ごゆっくり」
「ああっ……猫猫。待って俺も行く」
新しい教室にゆけば席順を書いたプリントが掲示板に張り出してあった。
まだまばらにしか来ていない。
再会を喜ぶものもいれば、そうでないものもいる。
廊下から1列目、前からは5列目である猫猫の前はと言うと、言わずもがな瑞月である。
先ほどから、しっかりと後ろを向いて、満面の笑みを向けてくる辺りがはっきり言って迷惑である。
瑞月と猫猫が付き合っているのは周囲も周知の事実である。
「どうかしたのか?」
「別のクラスがよかったな、と」
「なんでそんなこと。泣くぞ」
「慣れない。今までがずっと一緒じゃなかったから、この状況は心臓持たないというか。」
曇っていた瑞月の表情が、見る間に弧を描く。
「猫猫」
「私にとっては5年は大きくて。あの時はちょっと顔のいいクソガキだったのに違うんだもん」
「頼むからそれは忘れてくれ」
「無理だね。私にはその印象のが強い」
「だから慣れない。で、なんで笑ってんの?」
破顔しきる瑞月の顔に、猫猫もつられるよう笑ってしまう。
「嬉しい」
照れ隠しに猫猫は話を切る。
「はいはいはい。その話はおしまい」
「はいはいは禁止」
「猫猫おはよ。今日も朝からごちそうさま」
「おはよ。そんなつもりはないけど。普通に話してるだけでしょ」
「当事者はそう言うのよ」
「………桜花もクラス一緒だよね」
「うん。一緒で嬉しい。よろしく」
「こちらこそだよ。よろしく」
こちらは女子の光景。
瑞月を羽交い締めにしてくる男子生徒がいる。
李白だ。
「わかりやすいなお前、幸せそうにしあがってうらやましいぞ」
「そんなんじゃないし。この時間にここにいると言うことは、お前も、3組か」
「ああ。また一緒だな。よろしく頼むぜ。相棒」
「ああ」
賑やかな1年になりそうである。