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    hana

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    hana

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    研修医の瑞月と看護師の猫の話

    病院パロ入院患者の起き出す朝方は忙しい。
    朝の点滴、痰吸引、ナースコールの対応、検温等など、患者層により忙しさは異なるものの、業務内容が変わることはあまりない。
    朝の慌ただしさの一段落した病棟である。
    やっと座れた。
    猫猫は詰所内の椅子に腰を落とし、嘆息する。
    やるか。
    朝から部屋回りした分の看護記録を入れるため気合いを入れる。
    日勤の出勤してくるまでこの時間は記録のために必要な時間である。
    その間は珍しくナースコールもなく、臨検分の記録を終える。



    院内PHSが鳴る。
    検体検査室と表示がでた。
    「採血終わりました?取れた分だけでもおろしてください」
    時間は朝食が来る前の僅かな時間。
    早朝の採血は夜勤の研修医の仕事である。
    そういえば、もう採血も終わっていても不思議な時間ではない。
    研修医も一度も姿も影もみていない。
    「確認します。」
    「お願いします」

    今日の採血者のリストを出して部屋を覗いてゆく。

    研修医はすぐに見つかった。
    台車には空の採血管が5人分綺麗な状態で残っていた。
    つまりは、まだ、誰も採血が取れていないということである。
    目の前には採血、点滴困難な高齢患者相手に格闘する研修医の姿。


    「あの、失礼ですが。先生、検査室から検体の催促が来ているのですが」
    「もう、そんな時間?」
    「はい7時45分です」
    「マジかよ。」


    この患者は血管が絶望的にない。皆後回しにする患者なのだが。
    「すぐに出来ないならとりあえず諦めて先いかないと間に合わないですよ」
    「わかってはいる」
    わかってない。
    「手伝いますから、大御所さまはとりあえず置いて次いきますよ」
    「そうだった。すまない」


    顔のいい研修医は、絶望的に採血が下手だった。
    太く真っ直ぐに浮き出た血管に採血用の針を刺すのだが、研修医は針先を確認せず、勢いよく針を奥まで刺した。
    一度はルート内に返ってきた血液、結局差しすぎて、針先は血管を外れてしまう。
    (あーあ………こりゃだめだ)
    猫猫は研修医の格闘中に反対の正中に血管を見つけていたので、一度、駆血帯を外す。
    「先生、代わってくれます?これ終わらないと私も帰れないので」
    「ああ」
    結局は4人全ての採血を猫猫が終わらせた。

    残るのはあの婆様なのだが、とりあえず4人分先に検査室におろした。

    血管を探す研修医。
    見つけた細い血管に、こともあろうに勢いよく刺していた。
    (バカなの?そりゃあ。血管にはいらないよ)
    猫猫は盛大に研修医に呆れた。
    どんなに顔がよくても、技術がなければ、使えない研修医である。
    結局、最後も猫猫が採血する羽目になるのである。
    まあ、一度では血管には入らず、3度目で成功したのは許して欲しい。
    溶血とかしてないといいけど。3本目のは時間がかかったからあやしい。
    使えない研修医様は、ただ猫猫の手元を見て、ただ感心していた。

    職員の通用口。
    やっと仕事終わった。
    外は青空。夜勤明けの目には、少し眩しい。
    「あの、漢さん」
    誰かと思えば、あの使えない研修医である。
    「………ああ。なんでしょうか?」
    「さっきは助かった」
    「仕事なので、お気になさらず。大丈夫です。先生もお疲れ様でした」
    「お腹すいていないか?礼をさせてくれ」
    「遠慮します」
    「そうはいかない」
    「そういうことは彼女さんとどうぞ」
    「そんなものいないさ」
    「冗談。人からかうの辞めてもらえます」
    「誂ってない。俺は本気だ」
    研修医の上げた声に周囲の視線が集まる。
    うげぇ〜。最悪だ。
    「そういうことなので。失礼します」
    猫猫が踵を返せば、研修医、華瑞月に手首を掴まれる。
    「待ってくれ。頼むから」
    「離してください」
    「断る。いいと言うまで離さないからな」
    粘着質だ。めんどくさいのに捕まってしまった。
    「こんな見目の良くない女、放っておいてくださって結構ですよ」
    「行くというのなら離してやる」
    「そういうの、私は本当にいらないので、他を当たってください」
    「彼氏持ちか」
    「いないけどいらないと言っているんです。わかりませんか?」
    半眼に猫猫が見ても、男はひるまない。
    ただ、男は笑顔のままだ。
    「……………」
    綺麗な顔だけど、猫猫には正直興味がない。
    ただ、この状況はいただけない。
    この男、よくも悪くも人目を引く。最悪である。
    「……………わかりました。行きます。だから離してください」
    ぱっと、男は笑顔になる。
    無駄にキラキラした男だ。

    この出会いが、人生を左右するものになろうとは思いもしなかった





    「採血を教えて欲しいんだ」
    「はぁ?」
    「こんなペーペーの看護師に頼むことではないですね」
    「見事だったじゃないか」
    「今日のはまぐれですね。入らない時は、何回やっても入りません。特に最後の患者さんは、点滴も採血も一筋縄ではいかない大御所ですからね」
    「そうなのか?あなたは上手だと思う。他の看護師はもっと失敗していた」
    「…………………」
    お前に言われたくないと思われてるだろうな。
    成功してから言えと。
    他の看護師も。
    猫猫は苦笑いしか出ない。
    猫猫は痩せている、血管も贅肉がない分、くっきり見えている。
    毎年、新人の実験台なんだよなぁ、私。
    この人、真面目なんだろうけど。
    「それ、他の看護師の前で言わないほうがいいですよ。袋だたきに遭いますよ」
    「………だよなぁ。普通」
    「ですよ。一度も成功していないような研修医に下手なんて、私でも言われたくないですね。出直してこいって感じ」
    「………わかった。ありがとう」
    「どういたしまして」



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