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    hana

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    hana

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    過去に書いた、『青雲の志を抱く』の視点違いのような、そうでない話。
    官位や仕組みは深く考えてはいないので、突っ込まないでくださいね

    天馬空を駆ける いつものように、子供達に声を掛けられて早めに、宮を出る。
     本日、外廷に作られた水地のほとりで行われるのは建国を祝う宴。
     俊宇が身に纏うのは、祭祀用の官服である。父、宰相の代理で出る母親と共に俊宇も宴に参加するのだ。
     この宴には俊宇の弟二人と上の妹も国賓も参加していて、しいてに言えば、兄が医官として、下の妹も東宮妃の付き添いで出入りするので、兄弟妹が久しぶりに六人揃う。まあ出会えればの話だが無理だろう。
     上の妹、麗琳は結婚して国外に出てしまったので、長く会っていないが、他の兄弟妹にはたまに会うので、出会えれば運が言い位の感じであるのは確かだ。
     父が季節の変わり目に体調を崩して、補佐として就いていた俊宇は多忙を極めた。

     今日も、自分が母親を迎えにゆくはずだったのだが、会場ですることもあった俊宇は行けず、兄が朝から父の診察にゆくのだと言っていたこと思い出す。
     後で、父の容態を聞いてみようと思った。数日前に俊宇も実家には顔を出したが、大分顔色はよかった気がする。

     当日、部下に指示を出しながら、少し遠くに見えたのは医官の制服姿の颯凜と久しぶりに見る着飾った母親である。
     父はやはり颯凜に母親の付き添いを頼んだようだ。この場に颯凜がいるのは、颯凜が母を送って来たことに他ならない。医務班の待機場所はここからは対面にある会場の裏手である。
     相も変わらぬ、のほほんと笑っている。その周りでは颯凜の笑みに、アテられた女官が感嘆の声を上げている。この兄はそういう自覚が全くなく周囲など目に入った様子もなく無自覚に愛嬌を振りまく。困ったものである。俊宇は苦笑交じりに嘆息する。自分はそんなふうに無邪気には笑えない。
     颯凜と顔立ちがよく似ていると言われる俊宇ではあるが、中身は全く違うという自覚しかない。今でもよく間違われるけれど、俊宇としてはあまり心地良いものではなく、はっきりと言って不快である。
     歳も近く幼い頃から比較されることの多かった、俊宇と颯凜である。出来のいい兄を持つ苦労は当人でないとわからないものである。父も母も、祖父母も、兄弟妹それぞれに違うと言ってはくれるけれど、一歩外に出れば違う、全てが、比較の対象である。
     父親に似ていると言われる方がまだいいと思う、俊宇である。
     かといって俊宇は颯凜のことは嫌いではない。
     兄は、出来はいいくせに何処か不器用であり、内にこもるきらいがある。俊宇からすれば、もっと自信もてばいいのにと思っていた。それは今でも変わっていなくて、颯凜は積極性にはどうも欠ける。だがそれは兄の持つ性格なのだろう。いつの間にかふっ切れたようにのほほんと笑うようになった、颯凜の姿は兄らしいと思う。
     小さい時はそういう颯凜の内気さに苛ついてよく喧嘩ふっかけていた記憶があるが、歳をとるにつれて、苛つきも、喧嘩をふっかける意欲も落ちていった気がする。
    (懐かしいな)
     俊宇は不意に浮かんだ、幼い頃の記憶に還る。
     そして、俊宇にうかぶのは穏やかな笑みだ。


     会場設営も一段落して、天幕に来賓が入りだす。
    それを見届けて、俊宇が母親のいる天幕に向おうとした所で声がかかる。
    「俊宇」
     母親を天幕まで送り届けた颯凜だった。
     俊宇は裏方の仕事をしていたせいか、緊張の抜けぬままの顔で振り返っていた。何か起こったかと思ったりもしたのだ。この宴の運営の責任を持っている俊宇としては無事に終わるまでは気を抜けなかった。
     兄がここにいるということは、母が席についたということなのだろう。
    「兄上……母上は無事に到着されたか?」
     颯凜は、俊宇のよく見る普段の笑みを浮かべて、一つ頷く。
     その笑みは、俊宇の張った緊張を幾分か和らげるてくれる。それで、俊宇は自分の緊張を知る。
    「ああ。あとは俊宇に頼んだ」
    「あとは引き受けるよ。やはり母上のこと父上に頼まれたか」
    「ああ。父上らしいよな」
     自然と問えば、颯凜はわかっていたとでも言うように、その問いを肯定してくる。
    颯凜と一瞬視線が絡んで、俊宇も、わずかに口角を上げて笑む。
     父譲りの颯凜の穏やかな笑みは父を凌ぐものであり、颯凜の顔を拝もうと仮病でやってくる変な輩もいるほどだ。
    「兄上。そういえば、父上の容態はどうだった?」
     俊宇はようやく本題を振る。颯凜の穏やかな表情からその結果は分かっていた。
    「大分良くなっておられたよ。血色もよかったしね」
    「それはよかった」
    「父上は働き過ぎなんだよ。少しは手を抜いてほしいものなのだが」
    「それは同感だな。見張っておくよ。可能な限りで、だけどな」
    「頼むよ」
     子供の時はことあるごとに衝突してきた二人だが、ここぞという時には結託してきた仲である。ある程度なにをかんがえているかはわかるつもりだ。


    「すごいな。俊宇は。この宴の仕切り任されてたんだって聞いたよ」
     素直に颯凜に褒められるというのは中々照れるものである。そういう所は颯凜は見栄を張るでもなく素直に言ってくる。
     そういう純粋に人を見て、話を聞けるのは颯凜の良い所だと、俊宇は思う。
    「………ああ、父上から聞いたのか」
    「ああ」
     気にしない風で返せば、颯凜も気にした様子もなく、言ってくるのだから質が悪い。颯凜のきらきらとした瞳がなんとも眩しい。
     だからこそ、元皇族の子という立場でありながら、医官になれたのだろうけど。医学なんて俊宇には全く興味のない分野だが、他よりも多少持ち上げられて育っている分、過酷な世界に身を置くのは難しい。颯凜の柔軟な性格だからこそ出来ることなのだ。
    「すごくないよ。これくらい出来て当たり前なんだ。オレがやるって言わないと、父上が仕事抱え込んで、もっとひどい状態になってた。仕方なく受けただけだよ。宰相に倒れたら元も子もない。結果的に体調崩したからあまり意味なかったけどな」
    「大丈夫だよ。俊なら」
    「……またそうやって、からかう」
    「心外な。本心なんだけどな。素直に受け取ってほしいんだけどね」
    「………………」
    「いつもそうだよ。俊の行動力と機転には僕は敵わない。だから、俊宇に父上の補佐が出来るのは当然だと思ってるよ」
     調子が狂うんだよな、ほんとに。訝しげに、颯凜を眺めても、にこにこするだけで、俊宇の気持ちを汲む気はないらしい。いや気づかないだけなのか、いまいち謎な兄である。
     言うだけ無駄なんだよな、こういう時の兄は。
    「はいはい。もう行かないといけないから。颯兄も持ち場行かなくていいのかよ?」
    「大丈夫。午前中は父上の往診にあててあるから、ここに来るのは午後からでも間に合うんだよ」
    「あっそ」
    「どうせ道具取りに医局に戻らないといけないから俺も行くよ」
     純粋に颯凜の言葉が、俊宇に刺さる。嬉しい、と思う。近くで見ていてくれていた、それだけで嬉しい。

     普段なら素直に口にしない言葉だ。
     俊宇がじっと、颯凜を見た。口にするのは少し気恥ずかしいけれど、貰ってばかりというのも癪なのである。だから、今回は自分の気持ちを素直に口にする。
     不思議そうにこちらを颯凜が見ていた。
    「…………なに?」
    「似合ってるよ」
     俊宇はその言葉を、わずかながら勇気を出して口にする。
    「何が?」
     何のことだか全くわからないのか、颯凜は聞き返して来る。
    「医官の制服だよ」
     俊宇の声音は普段の抑揚がなく、思わず淡々と言ってしまったが、単なる照れ隠しである。
     だが、颯凜はそれは気にはならないといった様子で、いつものように笑っている。
     幼い頃はいたずらの責任を押し付けあった仲である。もしかしたら既に、俊宇の内の感情なんて看破しているのかもしれないけれど。
     颯凜はいたって普通なのだ。それが、俊宇は颯凜らしいと思う。
    「そうかな。ありがとう」
     颯凜は父譲りの、綺麗な笑顔を俊宇に向けている。
     天真爛漫といったような。
    この言葉が一番似合うのは、下の弟、三男の雲龍だけれど、颯凜にも当てはまる気がしていた。


     颯凜と一瞬視線が絡んだ。
     お互いに昔と変わらぬ笑みを浮かべていた。


     妹が国に帰省しているから、後できっと呼び出しがあるはずだ。
    「颯兄、また後で」
    「ああ。また後で」
     そう言って別れた。
    颯凜もう分かっていて同じ言葉を返してきた。


     俊宇は、母親の居る天幕の裏手から入り母の隣へ。
    「もう始まっているわよ。準備、お疲れ様」
    「すみません。遅れてしまって」
    「気にしないで、大丈夫。始まったばかりだから」
    「このまま何も起きないといいですけどね」
    「俊宇達が頑張って準備してきたのよ。大丈夫よ。」
     母のその一言が俊宇には嬉しい。身近な人のその言葉が。
    「だといいですけど」
    「私はそう信じていますよ。俊宇、父さまを支えてくれてありがとう。貴方が手伝ってくれなかったら、またあの人は倒れていたわ。俊宇の機転のおかげね」
     母は、颯凜と同じことを言う。母から言われても気恥ずかしいものである。
    「………もったいない言葉ですよ」
     照れていることはお見通しなのか、母もただ穏やかに笑って俊宇をみているだけだった。
    やりにくい。
    「それに……」
    「それに?」
     母はどこか楽しそうに笑う。
    「不安なら私が毒見してあげてもいいわよ」
     そういうことか。そういえば父から聞いたことがあった。
     母は毒見役を楽しんでしていた、と。普通なら、喜んで毒見役引き受ける人はいない。
     だが、母は薬と毒は表裏一体だと力説するほどの人物であり、小さい時からそれを見てきた。
     俊宇は呆れ混じりに母を見た。
    「それはだめですよ。母上は父上の代理なのですからね」
     毒見役として控えていた侍女からも抗議の声がした。
    「猫猫さま。私の仕事取っちゃだめですよぉ〜」
    「わかっていますよ」
     どこか残念そうに母は笑っていた。

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