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    hana

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    hana

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    時間軸は小説の13巻以降。
    でも、原作準拠ではない。

    釣書と猫猫玉葉后からの呼び出し。
    玉葉后は猫猫を往診を名指しで指名してきた。
    今日は、後宮の医局の筈だが、医局担当だった姚と交代になった。
    宦官がいなくなること考え、帝は女性が医官になることを認め、立場上医局付き官女であった猫猫たちは名実ともに本格的に周りの医官たちと同列に並んだ。
    それ長年続いた国の仕組みの根幹を変えた快挙であった。猫猫はその一期生としている。この国では女性は医官になれないという悲嘆が希望に変わる。猫猫は嬉しく仕方なかった。

    玉葉の月の忌が止まった。それは診察の後に確定となり、猫猫は、礼と共に玉葉后に告げた。子が腹に宿れば顕著に身体には現れる。

    「ありがとう。当然猫猫が取り上げてくれるわよね。あなたも医官なんだもの」
    「私は代理ですよ。玉葉后におかれましては、主治医官は上官の医官が務めるのがよろしいかと」
    「そんなさみしいこと言わないで。私はあなたがいいのよ」

    「ところで、あの子とはどうなの?」
    浮かぶのは瑞月の姿。複雑に、猫猫の顔が歪んでゆく。
    「どうと言われましても……」

    「私は楽しみにしているのよ。茶会に皇弟妃を招待するのを」

    「あなた達は周りに気を使いすぎなのよ。もっとお互いに素直にわがままになったら?たった一度きりの人生よ棒に振ってはだめよ」
    「………ですが。私は貴女の敵にも、梨花様の敵にもなりたくはありません」
    「あなた達がならないようにすればいいのよ。出来るでしょう」


    「あの子にも会ったら伝えておいて。皇族としての務めを果たしなさいと。きっと、あなた達の吾子も可愛いでしょうね。」

    水蓮が腰を痛めた。白羽の矢が立ったのは猫猫だった。
    水蓮の診察と治療も兼ねて久しぶりに猫猫は皇弟宮にやってきた。

    相も変わらぬ忙しそうに働く男である。

    そして居間でくつろぐだらけた姿は変わらずの色気を放っており、猫猫がここにいる理由が分からなくはない。

    ぼんやりと、高順から受け取った手紙を読む横顔は、綺麗で、猫猫は室内の片付けをしながらふと考える。
    飾らない素のままの瑞月の姿
    憂いを帯びたその姿に心ざわめく。
    思わずじっと見てしまっていた。

    猫猫は瑞月を手伝う。
    瑞月付きの事務を請け負う事務官がなのだが、今ここにその姿は無い。猫猫は麻美の代わりにいて、瑞月に聞きながらの作業である。
    脇の机には各所行き場毎に分けられており。
    苦労人の皇弟様はひたすらそれをはいている。
    相変わらずここに、男官吏の出入りはあるが、官女の出入りはなく瑞月の周りにいる女性は馬の者以外には無い。
    居間にいる時にしかり、表では見せることのない真面目で、素の混じる姿。
    考えるように遠く見つめる姿。
    どこをとっても本当に美しい。
    無為に跳ねてゆく鼓動を自覚させられる。
    交代だと現れた麻美。意味深に麻美に見られる。
    「美しくなられましたね」
    「それは、どういう?」
    「いつまでもこのままにとはゆかないのですよ」
    「はあ」
    猫猫には意味が分からない。

    水蓮の容態を見に行けば、「坊っちゃんはあなたのことしか見てないわよ」と言われる。

    その意味を知るのは、数日後のこと。
    瑞月の背後にある机。
    書面を見て分けていた猫猫の目に留まるのはとある書類である。
    当の瑞月は書面を眺めていたかと思うと、猫猫に渡すでもなく、背後の机上に無慈悲に放る。

    「あれはなんですか?」
    瑞月は苦笑混じりに笑って言う。どこか表情が複雑そうにゆがんでいた。
    「ああ、あの机上にあるのは釣書だな。今すぐにでも捨ててやりたいが、捨てるに捨てれなくてな」
    「…………ああ、なるほど、ですね」
    ここに中にもしかしたら、羅半が猫猫の釣書を瑞月にも送っていて、あるのかもしれない。そう思ったら複雑なのだが、ここにはないような気もする。
    釣書の数を目にして猫猫の気持ちは落ちてゆく。
    気安く話してはいるけれど目の前にいるのは、華の血を継ぐ皇弟様である。
    大事にされているのが分からないわけではない。ここにいることのできる意味も猫猫自身知っている。
    (こんな鶏ガラじゃ、やっぱりだめだよな)

    「もし、私が羅の娘と仮定しての釣書がここにあるとして、それも壬氏さまはこの山の中に捨ててしまうのですよね」
    瑞月はただ驚いていた。
    しばらく驚いた様子で、みていた。
    「…………………」
    「なんで黙るんです。速攻で否定するか、もしくは冗談って笑い飛ばす所ですよ」
    ばくばくと跳ねる鼓動。
    曖昧な瑞月の態度は猫猫には心臓に悪い。

    瑞月が笑っていた。
    「笑う所じゃないです」
    「笑えと言ったのはお前だ」
    「それはそれで腹が立ちます」
    「じゃあ、これで機嫌直してくれるか?」

    瑞月が机の抽斗から出してきたのは巻物だ。
    「見てもよろしいのですか?」
    「ああ」

    そこにあったのは、猫猫の姿絵の描かれた巻物で、名の通りの釣書である。
    こんなもの作るのは、羅漢ではなく、羅半だと、すぐに分かった。
    「やっぱりそれも、この釣書の山に捨ててください。恥ずかしいので。もじゃ眼鏡にはきっつく今後こういうもの作らないように言っておくので」
    「それは出来ない相談だな」
    「どうしてですか!!」
    「この釣書だけは大事に取っておく。俺にとっては大切な物なのだから」

    「だったらどうして、この前御手付きにしてくれなかったのですか?私としては、その覚悟でいたのに」
    猫猫から近寄ってゆけば、瑞月は笑みをくれる。
    「俺は……そんなあっさりとわりきれるのなら苦労はしない」
    「どういう意味です」
    「俺にとって、皇族でいることは苦痛でしかない。それに巻き込むのには抵抗があるのは確かだ」
    「もう十分巻き込まれていますけどね」
    「まあ………確かにそうだとも言うな」
    「それでも、ここにいるんだからいい加減察していただけると助かるのですけどね」


    「どうしたんだ?今日はやけに積極的なんだな。いつもははぐらかすだろう」
    まんざらでもなくはにかむように瑞月は笑う。
    「先日、玉葉后に葉っぱかけられました」
    「何を言われた?」
    「はっきりとは言われませんでしたけど、いつくっつくのだと急かされましたよ」
    「なるほどな」
    「壬氏さまにも皇后からの伝言頼まれましたよ」
    「何と言っていた?」
    「皇族としての役目を果たしなさいと。私たちの吾子はかわいいでしょうね、とも言ってましたね。」
    「………………」
    「その言い方だとあの晩のこと既にばれていますよ。きっと。まあ、想定内ではありますけどね」
    「だろうな」
    「それに、あの釣書の山を見ていたら、さすがに焦りを感じるというか、なんというか、壬氏さまの立場はわかってはいましたが、もやもやするというか……」

    手を引かれて導かれたのは、瑞月の腕の中。
    香る白檀の香が、ここにいていいのだと安堵をくれる。
    たまらず瑞月の背に腕をのばせば、強くなる抱擁。

    「壬氏さまが臣籍降下されるまで待つつもりではいましたが、あまり待てないかもしれません。貴方の隣に女性がいるのは正直想像したくないのです」
    「それは……」
    「だから、これを気に考え方を変えようかと思いまして」
    瑞月の緩んだ腕から抜け出して、瑞月の膝の腕に掛ける。視線は同じくらい。
    猫猫は笑みを浮かべて、瑞月を見る。
    「………」
    「分からないどこの誰かに壬氏さまを奪われるよりは、皇弟様でもいいので側に置いてください。一緒にいたいです」
    「そんなかわいいこと言われると離したくなくなるのだが」
    「そこまで言わないと壬氏さまは動いてくれないでしょう」
    「そうかもしれないな。否定はしないが、言われっぱなしで格好悪いな」

    「大概のこと器用にこなす人なのに、たまに抜けた、表情豊かな壬氏さまが私は好きですよ」
    「…………す…………き……?」
    顔を真っ赤にして視線を所在なく動かす瑞月が可愛くて、猫猫は笑んで、瑞月の胸に身体を預けた。触れた着物越しにでも、聞こえてくる瑞月の早い鼓動。
    「そ、それ、もう……一回言ってくれないだろうか」
    上擦る瑞月の言葉が、猫猫に今更に悪戯をしてきて、緊張を生む。伝潘するように猫猫の頬を染めてゆく。なんてこと口にしてしまったのか、少しだけ後悔した。
    「一度しか言いませんよ。恥ずかしいんですからね」
    「頼む。もう一回でいいから」
    「嫌です。今はもう言いたくないです。聞こえたのならよいではないですか」

    「もうしばらくこのままでいてくれないだろうか」
    「いいですけど、それだけで足りるのですか?」
    「今はこれで十分だ」

    不意に重なる唇、何度目かの口付けは心地よい温もりを残していく。
    二人照れたように笑って。
    ぎゅっと抱きしめ合って。

    「猫猫」
    「はい?」
    「この先、俺の隣の席に座るのは猫猫だけだ。それだけはずっと変わらない」
    「そう言ってくれるのはうれしいですけど。私は少し物足りないです。不安にもなります」
    「……………ああ」
    「もっと触れてもらってもかまいませんよ」
    「……じゃあ」
    おずおずと伸びてきた瑞月の手。猫猫の手に絡んできた瑞月の手は熱を持っていて、赤らんだ瑞月顔を見て、猫猫は笑った。
    (敵わないな。でも壬氏さまらしい反応だ)
    こういう顔見せられると嬉しくなるのは確かで、これは瑞月には性急過ぎたのかもしれないとも思う。もう少し待ってみようと猫猫も瑞月の手を握り返す。

    なかなか進むようで進まない、二人の距離はさらに周りを焦らしてゆくのだろうけど、少しは進んでいると信じたい。
    そう思う猫猫であった。




    話はそこでは終わらないののがこの二人である。

    「むず痒いわ」
    猫猫も壬氏もただ驚いて見ていた。
    「あに……主上何故ここに?」

    「水蓮に連絡を貰った。今度こそは上手くゆきそうだと、それが何だ?このざまは」
    「……………はぁ」
    「……………………」
    呆れる猫猫とただ居場所に困る壬氏がいる。
    「猫猫」
    「はい」
    「先ほどの言葉に偽りはないか?」
    「はい。ありません」

    「………猫猫」
    「私には今さらに隠す必要もありませんからね」

    戸惑う壬氏に帝が言ってきた。
    3ヶ月は待ってやると。
    それまでに納得のゆく答えを出せ。
    それが帝の付けてきた期限だった。


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