あなたのとりこじゅる、と液体を啜る音が響く。口付けなどという色めいた言葉では言い表せない音が桜の羞恥を燃え上がらせる。
下品にも思えるそれを鳴らすのは、いつも気品をたたえ優雅に茶を楽しむ男。
ただひたすらに桜の唾液を飲み干す姿は普段とはかけ離れていて、これが夢か幻覚なのかと錯覚してしまう。
「さくらくん」
甘い声だ。
桜の体液は桃の味がするらしい。固形物を口にしない蘇枋が、愛してやまないもの。
それが、桃の味の体液を持つ桜だった。
桃の木から熟した実を摘む。
水で洗い、皮を剥いて食べる。じゅわりと甘い果汁が舌を楽しませ、柔らかい果肉を噛み砕く触感もたまらない。喉に流し込んで腹におさめれば、「あともう一口」と手を伸ばしたくなる。
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