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    あける

    種熱が再燃したためイラストを描き始めた初心者🔰種箱推し/主にディアミリ/クラウド的に活用中

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    あける

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    自分用に結論ありきで始めたサイメイです。
    1から10まで捏造。キャラクターの解釈にも相違があると思うので、何でも許せる方向け。
    ディアミリ、アスカガ前提
    メイリンの誕生日に合わせて再放送

    ##サイメイ

    私たちのキスはいつですか? オーブに移住して数年が経ち、メイリン・ホークはようやく自分がオーブに馴染んできたと感じていた。
    四季によって目まぐるしく変わる気候、ナチュラルとコーディネイターが共存する人間関係。
    十六年間生きてきたプラントとはまるで違うオーブの環境に、初めはどぎまぎしたものだが、周囲の助けもあり、将来的にこの地に骨をうずめてもいいかもしれない、とまで思うようになってきていた。
    そう思ったきっかけの一つが、オーブの地で出逢った、想い人の存在である。
    大切な人が出来、オーブに対する愛着が殊更湧いたことには、我ながら単純だと思ったものだ。
     とはいえ、メイリンはこの地で生まれて初めて恋をした、という類いの話ではない。
    オーブに来る少し前、アカデミーや学生時代にコーディネイターの彼氏がいたことはあったのだ。
    その時のことは、それはそれで楽しかったよき思い出である。
    しかしながらメイリンと交際したコーディネイターの男たちは、自己愛や自己顕示欲の強い者ばかりで、どこか面倒くさく、メイリンは疲弊することも多かった。
    メイリンだって一端のコーディネイターであるから、容姿や能力はそれなりである。
    だが、より出来のよい姉のルナマリアと比べられて育ったせいか、コーディネイターとしての自信は強い方ではなく、彼らのそうした自信過剰な性格があまり合わなかったのだ。
     そんなメイリンが今お付き合いしているのは、オーブ出身のナチュラル、サイ・アーガイルである。
    彼はヘリオポリスの工業カレッジという、家柄がそれなりで優秀な子女が集まる学校の出身である。
    しかしそうであるにもかかわらず、性格は控えめで、ギラギラしておらず、かといって非社交的というわけでもなく、誰とでもそつなく付き合う人であった。
    彼のそうしたところに惹かれ、焦がれて、縁あって交際することになったのである。
    彼と交際を始めて三ヶ月が過ぎた現在、メイリンは少し悩んでいることがあった。
    (…あれからもう九十七日ですねぇサイさん)
    メイリンはプライベート端末の記念日カウントアプリを見ながら心の中で呟いた。
    サイに告白をして、オーケーをもらった十二月四日の日に登録した、記念日カウントアプリ。
    それが「今日は九十七日目」と告げていた。
    もうそんなに経つのかと、不安な気持ちに苛まれる。
     ピコンピコン
    正面にあった大型モニターが光った。
    メイリンは自身の端末から目を上げ、オート操縦になっていたキャバリアーが、マニュアル操縦へと切り替えを促す点滅をしているのを見やった。
    メイリンは小さくため息をつく。
    オーブの領空まで残り数十キロ。
    もうすぐ彼氏の待つ国へと戻るのだ。
    「どうかしたのか?」
    メイリンと背中合わせに座り、モニターを見ていたアスラン・ザラがメイリンの方を振り向いて言った。
    「いえ、なんでもありません」
    「なんでもないにしては、ため息が深かった気がするが?」
    上司としての気遣いだろうか、アスランがメイリンの顔色を窺う。
    「…ちょっと、気が重いっていうか…」
    メイリンの言葉にアスランは小首をかしげて考え
    「……サイと喧嘩でもしたのか?」と言った。
    サイとメイリンが付き合っているというのは、仲間内では誰もが知るところである。
    普段他人の色恋沙汰に全く興味のなさそうなアスランだが、部下のメンタルケアの一環だろうか。
    話してみたらどうだ?という目でメイリンを見ていた。
    メイリンは、アスランに恋の相談などしても不毛な気がしたが、上司の心遣いに配慮して口を開いた。
    「喧嘩じゃないんです。サイさんすごく優しいから、喧嘩なんかしないですよ」
    そう、サイはメイリンにとても優しかった。
    年の差が三つあるためだろうか。
    少し子供扱いのような気もするが、メイリンのやることなすこと全てに、柔和な笑みを称えて見守ってくれる人なのだ。
    「昔はあれでも感情的になることだってあったのよ」と、サイの学友であるミリアリアが言っていたが、メイリンには想像すらつかない。
    だから何かあっても喧嘩にはならないし、交際はいたって順調なのだ。
    「じゃあどうして」
    アスランが不思議そうに尋ねた。
    メイリンは白状するか迷ったが、
    「その…アスランさんは、ナチュラルの人って奥手だと思いますか?」
    と、あまりアスランを見ないように、その手前の計器に視線を送りながら訊いた。
    メイリンの唐突な質問にキョトンとしたアスランは、
    「奥手……?」としばし思案し、
    「ナチュラルのカガリは奥ゆかしいだけで、決して奥手ということはないが」と惚気た。
    「ナチュラルの人」と訊いただけなのに、アスランの中ではナチュラルイコールカガリ、の図式しかないらしい。
    やれやれ質問する相手を間違えたぞ、と思いながらメイリンが自身のモニターに向き直ろうとすると、
    「…サイが奥手ということか?」
    と返された。
    うぐっとメイリンは軽く唸って、手前のキーボードの上に突っ伏した。
    「そう…なんだと思います。もしくは私のことをそこまで好きになってくれてないか…」
    「なぜそう思う?」
    「だって……」
    ここまで話してしまっては引き下がるに引き下がれない。
    メイリンは自分の耳が赤くなるのを感じながら白状した。
    「付き合って九十七日も経つのに、ハグやキスの一つもしてくれないんですよ?おうちに行かせてもらったこともないし。これって、奥手か、私にそういう魅力を感じてないかのどちらかですよね?」
    言って、やはり後悔したメイリンはまた大きくため息をついた。
    これまでナチュラルの男性と付き合ったことがなかったメイリンは、初めのうち「これがナチュラル式の恋愛なのかしら?」と恋人同士になったのになかなかそれ以上の進展のないサイとの関係に、さほど疑問を持っていなかった。
    だがデートを重ねるうちに、段々とそうではないことに気づいてしまったのだ。
    ナチュラルだから、ではない。
    サイが特別「恋人らしいスキンシップ」を取らない人だから、なのだと。
    「奥手かどうかは知らないが、人には人のペースがあると思うが…?」
    不味いことを聞いたと言わんばかりに、アスランは自分のモニターに向き直りながら、オーブ領空に入ったことを知らせる計器に手を伸ばした。
     メイリンはアスランが定位置に戻ったことを気配で察すると、のろのろと顔を上げ、キャバリアーをマニュアル操縦に切り替えて着陸の準備に取りかかった。
    帰国したらデートがしたい。
    早くサイに会いたい。
    その気持ちに偽りはない。
    だけど。
    デート終わりにまた「今日もキスもハグもなかったな」と鬱々とした気分になるのが嫌だった。
    いっそのこと、自分からしてしまえ!と思わなくもない。
    なにせ、自分から告白するほど度胸があることは自負している。
    だが、ふしだらな女だと思われてしまったら?
    サイに嫌われてしまったら?
    そう思うと怖くなってしまうのだ。
    だから、会いたいけれど会いたくない。
    「もし仮に奥手だとしても、サイは君のことを大切に思っていると思うぞ」
    アスランはメイリンに聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟いた。
    サイが頻繁にメイリンに連絡をよこしていることをアスランは知っている。
    アスランとカガリが私的に連絡を取る頻度より、よほどまめにやり取りをしている。
    そんなまめな男が、彼女と適当な付き合いをしているわけがないのだ。
    メイリンは「だといいんですけどね」と小さく返事をした。
    ちょうどその時、オーブ軍管制から連絡が入り、キャバリアーはオノゴロ島へと着陸体勢に入った。


    ■■■


     三月十一日の午後。
    閣議が終わり、サイは書類を届けるために代表首長室を訪れていた。
    「代表、議事録をお持ちしました。次週へ持ち越しとなった議題と、その関連資料もまとめてあります」
    「そうか…いつも仕事がはやいな、助かるよ」
    オーブ代表首長であるカガリは、サイから受け取った議事録に軽く目を通した後、顔を上げると、にっと笑った。
    「さっきアスランとメイリンが帰ってきたそうだよ」
    その顔は首長の顔ではなく、ともに恋人を待つ同志の顔をしていた。
    「はい、そうみたいですね」
    サイも笑顔で返す。
    「二人はまだドックにいるだろ?これから会うのか?」
    「いえ、僕が明日から議員たちの付き添いで離島を回らないといけないので、準備に忙しくて」
    「そうか…それは間が悪かったな」
    カガリが残念そうに言った。
    「そういえば…」とカガリは琥珀色の目でサイをじぃと見た。
    「アスランがさっき何やら言っていたんだ。メイリンが元気ないみたいだとかなんとか」
    「えっ?どこか具合でも?」
    サイは驚いて問う。
    ついさきほど、メイリンと短い通話をした時は、いつもと変わらない声色だったはずだ。
    「いや、そういうことじゃなくてだ。…サイお前、メイリンとは順調か?」
    カガリの唐突な質問に、サイは戸惑った。
    「え?あぁ…」
    「どうした?もしかしてメイリンとなんかあったか?ちょくちょく遠距離になるせいか?」
    「あ、いや。そういうことではないんだけど……」
    もごもごと言い澱むサイに、カガリは首を傾げた。
    そして置物のように静かに脇に控えていたトーヤに問うた。
    「トーヤ、次の予定は何時からだったかな」
    「十五時半から軍事予算会議です」
    トーヤが端末でスケジュールを確認しながら応える。
    時計は十五時を少しまわっていた。
    「そうか。ではそれまで少し休憩しよう。トーヤ、悪いが人払いをしてここにお茶をお願いできるか。あとミリアリアが手隙だったら呼んでほしい」
    「承知しました、姉様」
    トーヤはそう言うと、きびきびと執務室を後にした。
    「ということで、少し話をしようじゃないか。この国の首長は国民の恋愛事も面倒みるんだぞ」
    と茶目っ気たっぷりのカガリに促され、サイはあれよあれよという間に執務室の脇のソファに腰をおろすことになった。
     ほどなくして、ノック音とともに一人の女性尉官が入室してきた。大きめのトレイにティーセットとお茶うけが入ったバスケットがのっている。
    「代表、お茶をお持ちしました。サイもお疲れさま」
    そうしてテーブルにそれらを並べると、彼女はサイの横に腰を下ろした。
    「すまないな、仕事中に」
    「上司の呼び出しですから、これも仕事のうちですよ」
    ばちんとウインクをしてティーカップに紅茶をそそぐのは学友であり同僚のミリアリアである。
    「メイリンと上手くいってないのか?」
    カガリがクッキーをかじりながら問うた。
    「付き合いたてなのに、たびたびメイリンを調査に行かせて悪いとは思ってるんだ」と申し訳なさそうに続ける。
    「いや、上手くいってない…ってわけじゃないんだ」
    サイは首を左右に振った。

     メイリンのことは、彼女がカガリとミリアリアを通してデートの申請してきたときに初めて異性として意識した。
    もともと軍施設や行政府ですれ違うことはあったし、なによりかのアスラン・ザラとコンビを組むオーブ軍の才媛だ。知らない人ではなかった。
    そんな彼女が、なんの取り柄もないはずの自分に声をかけてくれたのか。
    才能や容姿に恵まれたプラントの人々に囲まれて育ったせいで、純朴なナチュラルの自分がかえって珍しいのだろうか。
    そんな疑問を持ちながら初めて二人で食事をした日、サイは久方ぶりに心が高揚していることに気がついた。
    そもそも女の子とのデートは何年振りだっただろうか。
    そう振り返り、それがかつて婚約者だった、フレイとの顔合わせ以来なのではないかと思った。
    彼女とのことを引きずっているというつもりはない。
    なにせ彼女とはまだ恋愛未満の関係で終わってしまったのだから。
    だが、あの大戦で生き残り、色々思うこともあって行政府の補佐官の仕事を始めてからは、いわば仕事が恋人状態で、彼女もできぬままあっという間に二十代に突入してしまっていた。
     食事中、メイリンははじめ少し遠慮気味に、けれどお酒が入るにつれ、とても楽しそうに、サイの知らないプラントのことや、任務先で体験したあれこれについて教えてくれた。
    コーディネイターの彼女は当たり前に可愛い容姿をしている。
    だが、話しながらコロコロと笑う彼女の姿は、容姿うんぬんではなくとても可愛くみえた。
    それに生まれ育ちに共通点が見当たらないのにもかかわらず、不思議と似ていると思うところがあった。
    人に対して遠慮がちなところ。
    それでいて時に自分の考えを押し通す頑固な部分があるところ。
    似ていると思うと、彼女がコーディネイターであることなどどうでもよかった。
    一緒にいて胸の高鳴りと心地よさが共存するのは初めてのことで、もっと一緒にいたいと思えた。
    なのでそうしてデートを重ね、二人は付き合うことになったのである。

    「メイリンとなにかあったの?」
    心配そうにミリアリアがサイの顔をのぞき込んだ。
    はっとして、サイは首をふるふると横に振った。
    「何もないよ。まだちゃんと付き合ってるし」
    苦々しく笑みを浮かべながら、核心に踏み込ませまいと紅茶をすする。
    「まだってなぁに?あなたもしかしてメイリンと別れるつもり?」
    ミリアリアは声高に問いただした。
    「いやいやいや、それはないよ」
    「じゃあなに?なにか悩みがあるんでしょう?私たちに言えない事?」
    ミリアリアの薄藍色の目がサイをのぞき込んだ。
    サイはこの目に弱い。
    いや、そもそも女性にこういう顔をされるのに弱い。
    後頭部を無意識に撫でて「なかなか言いにくいんだけどさぁ」と切り出すと、ミリアリアもカガリもソファから身を一歩乗り出してサイの方に耳を傾けた。
    「だから、その…俺、メイリンになにもしていなくてさ。付き合ってから今まで、いわゆる「恋人らしいこと」ってやつをさ。それでメイリンを不安にさせてて、彼女はいま元気がないんだ、と…思う」
    サイはやはり気まずくなり、尻すぼみに答えた。
    カガリは「恋人らしいことってなんだ?」と不思議そうにしたが、ミリアリアはピンときた様子で「あぁ~…」と納得気にうなづいた。
    「つまりそのせいでお互い微妙な感じなのね?」
    サイは頷いて、普段より小さな声で言った。
    「やっぱり女の子も、恋人になったらスキンシップとか取りたいって思うよね?」
    カガリもようやく合点がいったのか
    「うん?つまりあれか?二人は手を繋いだりキスしたり、そういった「恋人のするスキンシップ」がまだだという話か?」とミリアリアに小声で囁いた。
    「そのようね」とミリアリアも小声で相槌をうつ。
    「いちおう手くらいは繋いだことあるよ…」と小さくなるサイの肩を、ミリアリアがぽんぽんと大げさに叩いた。
    「サイは真面目ね。それがアナタのいいとこだけど、少しは勢いに任せてもいいんじゃない?」
    「そうかな?」
    「そうだぞ、何事にも勢いが大事なときだってある」
    カガリも頷きながらクッキーをまた一つ摘まんだ。
    「俺は恋愛経験不足なのに、相手はコーディネイターだろ?普段はメイリンがコーディネイターだとか意識してはいないんだけど、そういう雰囲気の時は少し身構えちゃって。今こんなことしたらどう思われるだろう、節操のない野蛮なナチュラルだと思われないかな、とか。なんだか色々考えちゃうんだ」
    サイは弱々しく微笑みながら言った。
    デート中、メイリンとそういう雰囲気になったことは何度かある。
    メイリンがそういうことを待っているような気配も察している。
    もちろんサイ自身にもそうした、メイリンとどうにかなりたいという欲求はある。
    だが。
    「もう、だから気を使いすぎなのよ~」
    ミリアリアがお茶請けのバターサンドに手を伸ばしながら言った。
    「ディアッカにグイグイ行く心持ちでも教授してもらったらどうだ?」
    カガリが紅茶をすすりながら「名案を思いついたぞ!」と言わんばかりに提案をする。
    「やだ~!サイがアイツみたいにグイグイ好きだの愛してるだの言いまくったり、キス迫ったりなんかしたらメイリンが可哀そう!逆に気まずくなると思うわ!」
    ミリアリアが大げさに嫌な顔をした。
    「それにそれじゃあサイのいいところが台無しよ!」とバターサンドを持っていない方の手をぶんぶん横に振っている。
    ミリアリアの心を繋ぎ止めるためのディアッカの「グイグイ」に、サイも加担していることをたぶん二人は知らないのだろう。
    「私たちのまわりは恋愛の手本になるような男がいないからな。私が言えた義理じゃないが、アスランのやり方もお薦めできない」
    「それってどういう?」
    「突然指輪を贈ったり、さ」
    「あぁ確かに…。アスランもディアッカも恋愛の癖が強いのよね」
    自分たちの最愛をこき落としながら、カガリとミリアリアは優雅に二杯目の紅茶を飲んだ。
    「二人はさ、付き合いたての頃、彼氏にどうしてほしいとかあった?」
    サイも一口おかわりの紅茶を飲み、彼女たちに問うた。
    「そうだな…」「そうねぇ」と二人はしばし思案して、カガリが先に口を開いた。
    「スキンシップどうこうより、やっぱり言葉でなんでも伝えてほしかったかな。いまでこそ言わなくても分かる部分もあるが、やっぱり口で言ってほしいものなんだよ。自分をどう思ってるかとか、愛の言葉とか。初めのうちはまだ心の底から相手の気持ちを信頼出来ていないってこともあるからさ」
    「それは分かるわ…といっても、アイツはそういうのすぐ言っちゃうタイプだから、軽すぎて逆に信用できなくて嫌だったんだけど。でも言われたら言われたでやっぱり嬉しいものよね」
    「サイはどうだ?ちゃんとメイリンに言ってるか?愛してる、とか、好きだよ、とか」
    「言って…ないかもしれないな。メイリンが「好きです」とかよく言ってくれるから、「俺もだよ」とは言ったりするけど、自分から発信はしてなかったかもしれない」
    「じゃあまずスキンシップの前に愛を囁くことからね」
    ミリアリアがこぶしを握ってぐっとサイに喝を送る。
    「そういえば」とミリアリアは思い出したように続けた。
    「メイリンがあなたの連絡先を教えてくれって言ってきた時ね、あの子「サイさんはコーディネイターでも好きになってくれるでしょうか?」って心配してたのよ」
    「そうなの?」
    「メイリンってコーディネイターにしては、ちょっと自分に自信ないところがあるじゃない?だからやっぱりちゃんと、好きって言葉で伝えないと不安になってると思うわ」
    「それから愛情表現のスキンシップだな」
    カガリが付け加える。
    「もちろん、時には贈り物をするっていうのは有効よ。ちゃんと適切なタイミングでね」
    女性陣からのアドバイスを、サイは心のメモ帳に必死に書き留めた。
    メイリンにちゃんと伝えよう、そう決意しながら。
     コンコンコンとノック音がして、トーヤが執務室に入ってきた。
    恋愛相談の時間はそろそろ終わりのようだ。
    「ありがとう二人とも、参考にするよ」
    サイは心強い友にそう言いながらカップを片付け立ち上がった。


    ■■■


     オーブに帰国してから三日経った、三月十四日の夕ぐれどき。
    メイリンは最近出来たばかりのレストランの前で立ち止まった。
    待ち人はまだ来ていないらしい。
    ほっと息をつきながら、通りがよく見えるところに立ち、端末を取り出す。
    十分前に「これから出るよ」と連絡が来ていたので、彼もそろそろ着く頃だろう。
    ぴろん、と端末の上部に通知が入った。
    記念日カウントアプリから「交際百日目」のお知らせである。
    「そうだ、今日百日目だ……」
    メイリンは端末の壁紙に設定された彼の写真を眺めながらひとりごちた。
    「メイリン!」
    浅黄色の髪の青年が、通りの左から彼女に向かって手を振りながら、小走りで駆けてきた。
    サイだ。
    「ごめん、待ったかい?」
    「いえ、今着いたとこです」
    「それならよかった。今日はなんだか冷えるから、寒い中待たせたかと思ったよ」
    サイは乱れた息を整えながら、「入ろう」とメイリンを促した。
    時折ひんやりとする三月の秋風が頬を撫でるので、メイリンは思わず首をすくめながら、サイとともに足早にレストランの入口に向かった。
     オーブに帰国してから、首長たちへの報告や諸々の業務で忙しかったうえ、サイはサイで地方へ出張に出てしまい、ようやくお互い勤務終わりに都合をつけて、今日こうして会えることになったのだ。
    やはりサイの顔を生で見れると嬉しい。
    素直に「会いたかったんだ」という気持ちを実感する。
     「こんなところにレストランが出来てたんだね、知らなかったよ」
    席に案内されると、サイはメニューをめくりながら言った。
    「この辺、色々な名店が誘致されてきているんですよ。軍からも近いから、お昼休みに抜けてくる隊員も多いそうです」
    「そうなんだ、よく知ってるね」
    「実は、ミリアリアさんから聞きました」
    メイリンは肩をすくめて言った。
    「ディアッカさんと行きたいお店をリサーチしてて、良さそうなところ見つけたからって、教えてくれたんです。お二人はまだ来れてないみたいなので、今日わたしが食べた感想をお伝えすることになってるんですよ」
    サイと久々にデートをすると言うと、ミリアリアは気前よく自身がピックアップしていたおしゃれなレストランの候補をいくつも提示してくれたのだ。
    「そっか。ミリィ、美味しいとこよく知ってるもんな」
    そう言って、サイはメイリンの好きそうな料理をいくつか指さして、
    「シェアしていろいろ食べようか?」と訊いた。
    メイリンはこの優しい気遣いの人を眺めながら彼を知ることとなった頃を思い出した。

     首長や氏族らを支える行政府の補佐官に、一人やたら若い人がいるなとメイリンが気づいたのは、オーブに亡命して少し経った頃のことだった。
    最初はどこかの氏族の縁者なのかと思っていたが、一般採用であると聞いて驚き、さらには第一次大戦時にアークエンジェルに乗っていたこともあると聞いて、とても興味を持ったのだ(みな噂好きなので、調べずとも耳に入ってくる)。
    首長らへの報告に官邸を訪れるとき、メイリンは無意識に彼の姿を探していた。
    いつ見かけても、彼は穏やかな顔をしており、落ち着いた少しハスキーな声で、周りの職員と会話をしていることもあった。
    メイリンの視線に気がつくと、ぺこっと会釈をして微笑む彼の姿にメイリンはどきりとし、サイの存在感は日ごとに増していった。
    初めて挨拶以外の言葉を交わしたのは、軍の射撃訓練場だった。
    サイは行政府での仕事がメインだが、オーブ軍にも籍を置いている。
    その関係で月に数度、射撃や体術、戦闘艦のオペレートの訓練を受けているのだという。
    その日メイリンは、日頃PCモニターばかり見つめていて鈍った体に鞭を打ち、射撃場へと向かっていた。
    メイリンもまた、ターミナルに出向中とはいえ、オーブ軍の訓練規定をこなさねばならない身なのだ。
    時計は二十一時を回った頃だった。
    この時間帯なら閉場間際のため空いている。
    人気のない施設に足を踏み入れたメイリンは、パンッパンッと音がすることに気が付いた。
    どうやら奥の的場に先客がいたようだ。
    メイリンはイヤーマフやシューティンググラスなどを準備して、的場へと向かった。
    一つだけ照明の当たっている的場に近づくと、浅黄色の髪に軍服を纏ったその後ろ姿がサイのものであると気がついた。
    メイリンは隣のブースに入り、照明をつけ、なんでもない風を装って訓練を開始した。
    余計なことを考えないように「集中集中!」と自分に言い聞かせる。
    静かな建物に、二人の銃声だけが響いていた。
    的を交換するタイミングで、ちらりと横のブースを見ると、真剣なサイの横顔が目に入った。
    普段の眼鏡ではなくシューティンググラス姿なのが新鮮だった。
    そんなに見つめていたつもりはないのだが、サイがメイリンの視線に気づいて打つ手を止めた。
    メイリンは慌てて自分のブースに向き直ったが
    「あの…」
    とサイに呼び止められてしまった。
    「よかったら少しご指南いただけませんか?」
    「えっ?」
    「僕射撃があまり得意ではなくて、弾が少し右に逸れる癖があるんですよね」
    サイは恥ずかしそうにそう言った。
    確かに、全体として右側に弾痕が寄っている。
    「私もあんまり上手くはないですけど…」
    メイリンはサイのフォームを見ながら、いくつか気づいたところを指摘した。
    その間、心臓はばくばくと鼓動を早めていた。
    サイがフォームを逐一確認しながら一射、二射と丁寧に打ちこんでいく。
    先程よりやや中央に当たっていた。
    飲みこみが早く、とても器用な人だ。
    メイリンは感心しながら見ていた。
    「なるほど…なんとなく分かった気がします、ホーク三尉」
    サイがメイリンの方を見て急に名前を呼んだので、彼女は驚き目をしばたかせた。
    「えっ…あ…私をご存知ですか?」
    「もちろん知っていますよ。ザラ一佐の相棒、オーブ軍のホワイトハッカー、メイリン・ホーク三尉ですよね」
    「へっ?は、はぁ」
    そんなあだ名でサイが自分を認識していたのかと思うと、メイリンは途端に赤面した。
    自分だけが勝手にサイのことを知っていると思っていたのに。
    「自分はサイ・アーガイル三尉です。普段は行政府で補佐官をしています」
    そう言ってサイは銃を置き、右手を差し出した。
    知っています、と思いながらメイリンはその手を取った。
    サイの手は骨張っていて、手のひらにところどころタコが出来ていた。
    「よく練習されているんですね?」
    「いやぁ」とサイは頭をかきながら苦笑いをした。
    「身体を使うことは苦手なんですけど、曲がりなりにも軍人という立場ですからね。咄嗟の要人警護にも役立ちますし、頑張っているところです」
    サイの謙虚な回答に、メイリンは拍手を送りたくなるのをぐっとこらえた。
    これが彼女の知るコーディネイターだったら、自分がどれだけ練習に精を出しているかを語っていただろう。
     館内にかかっている掛け時計にサイがちらりと視線をやった。
    「もうそろそろ閉館の時間ですね。片付けましょうか」とそう言ってシューティンググラスを外した。
    青水晶のような裸眼がはっきりと見えて、メイリンの胸がまたどくんっと波打つ。
    サイは普段の色付き眼鏡に掛け替えると、「遅いのでよかったらうちまで送りますよ」といって微笑んだ。
     宿舎まで送ってもらい、サイに礼を言って別れた後、メイリンは「ふぁぁあ」と大きく息をついた。
    緊張のあまり肩に力が入っていたようだった。
    どきまぎして、まともな会話は出来ていなかった気もするが、その日の夜はサイと交わした会話を何度も何度も反芻して、ベッドの上でのたうちまわったのだった。

     そんな風にして半ば一方的に意識していた彼が、いま目の前でこうして自分に向かって楽しげに話している。
    メインの皿が運ばれて、メイリンが「美味しそう」だの「このお皿すてき」などと感想を述べると
    「ミリィに写真送る?感想伝えるなら写真もあったほがいいよね。俺の方の料理も撮るでしょ?」とにこにこしながら料理に手を付けるのを待っていた。
    こういうところも好きだ。
    女性のこと、特にメイリンのことをよく分かっている。
    「サイさんってご兄弟いるんですか?」
    ふとそんな疑問がわき、メイリンは写真を撮り終え端末を仕舞いながら言った。
    「うん、姉が一人に妹が二人ね」
    サイが肉料理にナイフを入れながら答える。
    「へぇ~、じゃあ四人姉弟!?」
    「うん、妹たちは双子だよ」
    「そうなんですね!?」
    第二世代、第三世代と人口減のプラントでは、兄弟がいる家庭は珍しい。
    ホーク家は幸い両親の遺伝子の相性が良かったためか二人姉妹だが、周りは一人っ子のほうが圧倒的だ。
    もしサイと結婚したら、コーディネイターの私に義姉妹が三人も出来るのか、などという妄想が駆け巡る。
    「写真見る?」
    そう言ってサイが切り分けたお肉をメイリンの皿に置いた後、手を止めて端末で写真を見せてくれた。
    アーガイル姉妹とサイが四人仲良さそうに写っている。
    「お姉さんと妹さんたちに囲まれて育ったから、サイさんは女性に優しいんですね」
    メイリンは目を細めて写真を眺めた。
    「そうなのかな?うちは母を含め女性陣が強いから、彼女たちのご機嫌をとらないと生きていかれなかっただけだけどね」
    サイははははと照れ笑いをした。
    「いつかお会いしてみたいです、サイさんのご家族」
    メイリンがポツリというと、
    「うん、いつか会ってよ。みんなオーブにいるからさ」
    とサイはメイリンに朗らかに笑いかけた。
    家族に会わせてもらえるというのは、オーブではどういう意味だろうか。
    真剣交際と捉えていいのだろうか。
    それならいっそのこと、ゴールインまで「超完全な」プラトニックでもいい気もする(ただし相当な忍耐力が必要だが)。
    そんなことを思いつつ、メイリンは食事を終えるまで家族の話や、会えなかった間のあれこれについてサイと楽しく語った。


    ◾◾◾


    「少し散歩しようか」
    と、会計を済ませて店の外に出た二人は、海岸沿いの広い遊歩道を歩いていた。
    平日だからか、人気はほとんどない。
    海は穏やかだが海風は少し強く、メイリンは羽織っていた薄手のコートの前をしめた。
    それを見て「風が冷たいね」とサイがそっとメイリンの左肩を抱いた。
    ふわっとサイの匂いがする。
    存外がっしりしたサイの腕に抱かれた肩は熱を持ち、反対の肩はサイの横腹あたりにあたるので、どぎまぎしたメイリンは体をちぢこませた。
    初めてこんなに密着したのでこそばゆい気持ちになる。
    「メイリン、今日は会えてよかった」
    サイが前を見ながらそう言った。
    メイリンは「はい、私もです」とサイを見上げた。
    「最近、ちょっと元気なかったって?」
    サイはまだメイリンを見ずに歩を進める。
    月の光に照らされた遠くの方の海を見ているようだった。
    サイは情報通である。
    職業柄というわけではなく、二人に共通の友人が多いせいだが、きっとなにか聞いたのだろう。
    メイリンは逡巡し
    「そんなことないです」と首を振った。
    サイが眼鏡越しにちらりとメイリンを見た。
    サイを見上げるメイリンの視線と交わり、サイは哀しそうなのに少し口角を上げる。
    「俺が不甲斐ないせいだね」
    弱々しく笑むその横顔が、メイリンの胸をぎゅっと締め付けた。
    メイリンは決してサイにこんな顔をさせたいわけではない。
    デートは楽しい。
    サイと居られてとても幸せだ。
    ただちょっと、進展のなさに焦ってしまっただけなのだが、そんな自分の浅はかさがサイを傷つけたのかもしれない。
    「そんなことないです。わたし、サイさんとお付き合い出来てすごく幸せなんですから!」
    強欲な自分のせいでサイに傷つかないで欲しい。
    メイリンはふるふると首を横にふった。
    「でも不満もあるだろ?」
    「不満、…というか」
    メイリンはまごついた。
    「言わなくていいよ、分かってるからさ」
    サイはカラッと笑ったかと思うと
    「あのさ、今日は何の日か知ってる?」
    と立ち止まり、唐突に質問をした。
    もちろん知っている。
    今日は付き合って百日目である。
    「サイさんもカウントしてたんですか?」
    メイリンも立ち止まり、驚きとともに聞いた。
    「ん?」
    「付き合った記念日です。今日でちょうど百日目ですよね?」
    「あ……?」サイは驚いたように次の言葉を探していた。
    しまった。
    サイが求めていた答えと違ったのだ。
    メイリンは目を泳がせた。
    なにか言い訳を…と思っていると、
    「カップルにはそんな記念日があるのか。やっぱり俺は経験不足だなぁ」とサイが自嘲した。
    そして「今日はホワイトデーだねって言いたかったんだ」と罰の悪そうに言った。
    「ほわいとでー?」
    プラントでは馴染みのない記念日の名前を聞いてメイリンは首を傾げた。
    オーブの祝日ならだいたい覚えている。が、そもそもオーブには古今東西の宗教的な記念日や語呂合わせの○○の日がたくさんあるので、正直すべては把握していない。
    そんなメイリンにサイは説明した。
    「元はバレンタインデーのお返しをする日っていう、商業的な理由で西暦の時代に出来た日だったんだけどね。今じゃバレンタインデーは追悼の日という認識で、イベントじみたことはしないでしょ?だから、バレンタインの代わりに、オーブのカップルたちはホワイトデーに贈り物をしあって愛を確かめたり、好きな人に告白したりするんだよ」
    「そうなんですね」
    オーブに来てから仕事三昧だったメイリンは、これまでホワイトデーをお祝いしたことがなかった。
    だが思い返してみれば、三月になると見知らぬ同僚からちょっと値の張るお菓子を渡されることがあった気もする。
    「ちょっと前に今日がホワイトデーだって気づいてさ。サプライズで何かしたいと思ってたんだけど、でもちょうどよかった。百日目なんだね、俺たち」
    「はい…そういうのカウントできるアプリがあって、こっそりカウントしてました」
    メイリンは顔を赤くして俯いた。
    サイはふふっと笑うと
    「教えてくれてよかったよ。それでね、これ…」
    そう言ってコートのポケットから小さな箱を取り出した。
    赤いリボンが掛けてある白い小さな箱だ。
    渡されて、メイリンは手のひらに乗ったそれを見た。
    「開けてみて」
    サイに促され、メイリンは箱に掛けられたリボンを外した。
    開けてみると、華奢なデザインの一粒パールのネックレスが中に鎮座していた。
    「サイさん、これ…?」
    「君の好みが分からなかったから、誕生石がいいかなと思って。彼氏として色々至らないお詫びと、そんな俺と一緒にいてくれる日頃の感謝の気持ち。出張先がちょうど真珠の養殖が盛んな島でね、見つけたんだ」
    「どうかな?」とメイリンの顔色を窺うようにサイが尋ねる。
    「……すっごい綺麗です…」
    「気に入った?」
    「はい…とっても!」
    メイリンは感動して言った。
    恋人からの初めての贈り物で、それが交際百日目だというロマンチックな状況にときめいた。
    「つけてみてくれる?」
    メイリンはこくんと頷き、サイに小箱を差し出した。
    サイは中の台座からネックレスを外すと、メイリンの後ろへまわり、彼女の首へとかけた。
    コートの前を少し開けると、メイリンの鎖骨の間に小さな宝石がおさまった。
    「どうですか?」
    「とてもいいよ、よく似合ってる」
    サイはメイリンの前へ再び戻ると、嬉しそうに顔を綻ばせた。
    メイリンは小さな真珠を指先で転がしてみる。
    真珠が街灯と月の光を受けて、淡いクリーム色や薄桃色に変化して艶めいた。
    「メイリン、こんな俺だけど、百一日目もその先も一緒に過ごしてくれる?」
    まるでプロポーズのような言葉を囁いて、眼鏡越しのサイの瞳がメイリンをじっと捕らえていた。
    メイリンは甘酸っぱい気持ちで微笑み頷いた。
    なんて幸せなのだろう。
    スキンシップはまだなのか?サイは自分のことが好きなのか?等と思い悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
    彼はちゃんと自分と向き合ってくれていて、一緒にいない時間も自分のことを考えてくれていたのだ。
    とても大きな愛にすっぽりと包まれていたのだと、ようやく気づかされた気持ちだった。
    「…メイリン」
    サイが酷く優しい声で名前を呼んだ。
    サイの右手がそうっとメイリンの左の頬に触れ、その親指が愛おしそうにメイリンの頬を行ったり来たりする。
    「メイリン……メイリン…」
    何度もそう呼ぶので、メイリンは恥ずかしさのあまりサイから目をそらした。
    すると、ちゅっ、とおでこにサイの唇が触れたのを感じた。
    そしてメイリンの頬を撫でていた手が彼女の首筋に下りてくると、サイの顔がそっと近づいてきた。
    わずかに自分の体温より高い、柔らかいものが唇に触れている。
    そう気づき、慌てて目を閉じたメイリンは、サイのコートの胸元をきゅっと掴んだ。
    そうでもしていないと、体がふわふわと浮いてしまうのではないかと思ったのだ。
    触れているところに、身体のすべての神経が集まってきているかのような錯覚を起こす。
     ほんのわずかにサイの唇が離れた。
    かと思うと、今度はメイリンの口全体が大きくて柔らかなものに包まれた。
    しっとりとしていて、それがとても気持ちよく、メイリンの体の奥がずきゅんと音を立てる。
    とても柔らかいものをはむように、優しく、ゆっくりとメイリンの唇を愛でていた。
     どれくらいの時間が経っただろうか。
    ちゅっとリップ音を立てながら、名残惜しそうにゆっくりとサイが離れていった。
    メイリンはどうやら息を吐くのを忘れていたらしく、弱弱しい「はぁぁ」という声とともに吐息をもらした。
    「メイリン、好きだよ」
    そういってサイがまたメイリンの左の頬を指で優しくなでると、メイリンの視界は大きくぼやけ、重力に耐えかねた温かい滴が頬を伝って落ちていった。
    幸せなんだと安心すると、こんなにも目頭が熱くなるのだということを、メイリンはこのとき初めて知った。
    「私もサイさんのこと、大好きです」
    そういって大輪の花が咲いたかのように破顔した彼女の頬を、また幾筋もの涙が濡らした。
    サイはメイリンを抱きしめると、
    「泣かないで」
    と言って優しく頭を撫でた。
    メイリンはこくこくと頷くものの、しばらくサイの胸で泣いていた。

    ようやく落ち着いたメイリンは、初キスで大泣きしたことが急に恥ずかしくなってきた。
    キスで泣く女なんて、重すぎる。
    サイのことを好きになりすぎるあまり、そもそもちょっと重いのは自覚していたのだが、それにしても、だ。
    そろそろと顔を上げてみると、サイの慈愛に満ちた瞳がメイリンを見て微笑んでいた。
    こんなに泣いて、きっとメイクはボロボロだし、目は充血しているだろう。
    重い上に、可愛くもないなんて。
    羞恥心からサイの顔を見るのがはばかられ、メイリンは再びぽすっとサイの胸に収まった。
    サイはまた優しくメイリンの赤毛を撫でる。
    小さい子にするように、とても優しく。
    どんなに重くても、顔がボロボロでも、サイは自分の全てを受け入れてくれる。
    そんな気持ちにさせてくれる、温かさがあった。
    「百日記念日がキス記念日になっちゃった…」
    メイリンは思わず呟いた。
    呟いたつもりはなかったのだが、心の声が漏れてしまったのだ。
    はじめ何も応えなかったサイだったが、だんだんと小刻みに震え出すと、
    「えぇ~なんだか恥ずかしいな、それ」
    とメイリンを抱き締めたまま笑い始めた。
    「俺、彼女に「今日は彼氏がファーストキスをしてから何日目」って把握されることになるよ?」
    とひいひい言いながら、必死に笑いを収めようと震えている。
    「え、ファーストキス?」
    「うん、ファーストキス」
    「サイさん、ファーストキス??」
    メイリンは目を丸くしたが、サイが
    「そんなに確認しないでよ」とあまりにも笑うので、メイリンもだんだんと可笑しくなってきた。
    彼氏のファーストキス記念日をカウントする女、重いどころか痛い。痛すぎる。
    「ところで、キス百日記念日は何をするつもりなの?」
    くくくっとなおも笑いが収まらないサイが真面目に聞いてくる。
    いや、半分面白がっている様子だ。
    「ん~一日中キスしましょう?一日で目指せ百回!」
    とメイリンも冗談混じりに応えると
    「それは楽しみだね。俺もカウントダウンアプリ落とさなきゃ」
    と、サイは笑いすぎて出た目尻の涙を手で拭いながら楽しそうに言った。
    サイとメイリンはそうして抱き締めあったまま、しばらく笑っていた。
    秋の夜風が、二人の火照った頬を優しくなでていった。


    ■■■


    ミリアリアは午前中の業務を終え、食堂で昼食を取り終えたその足で射撃訓練場へと向かっていた。
    午後の眠い時間帯に訓練を入れて、目を覚まそうという作戦である。
    渡り廊下を歩いていると、目の前から赤髪の小柄な女性と眼鏡の男性が歩いてきた。
    「ミリアリアさ~ん!」
    その女性が先にミリアリアに気づき、手を振っていた。
    「あらメイリン。それにサイも」
    ミリアリアはオーブ軍の軍服を身にまとった二人を認め、同じく手を振った。
    「訓練場ですか?」
    「えぇ、今月分のノルマが終わってなくて、まとまった時間ができたからこれから終わらせに行くとこなの。あなたたちは?」
    「俺たちも今こなしてきたとこだよ」
    「サイさん、射撃がすっごく上手になったんですよ」
    「メイリンが丁寧に教えてくれるおかげだよ」
    サイが恥ずかしげもなく惚気るので、
    「あらいいわね、可愛い先生に教えてもらえて」
    とミリアリアはちょっぴり皮肉を込めて言った。
    「そうだね」
    サイはメイリンを見ながら照れて後頭部を掻いた。
    皮肉は通じなかったらしい。
    「仲良さそうでなによりだわ」
    ミリアリアは二人の邪魔をしてはいけないと思い、歩を進めようとしたところで、メイリンの胸元に輝く小粒のパールのネックレスに気が付いた。
    「それ素敵ね」
    ミリアリアの視線に、メイリンは「あっ…」と一瞬顔を赤らめ、そのネックレスにそっと触れた。
    サイが優しい目でメイリンのことを見ていることからして、サイからの贈り物なのだろう。
    友からのおせっかいな助言をすぐさま実行した素直な彼氏だ。
    「ミリアリアさん、あの…なんだか色々お世話になったみたいで…」
    メイリンが恥ずかしそうにミリアリアに礼を言った。
    「私は何もしてないわ。メイリンがいい男を捕まえたってだけの話よ」
    そういって、ぱしぱしとサイの腕を軽く叩いてやった。
    「今度なんかお礼する」
    サイが小声で囁いたので、ミリアリアは軽く頷いた。
    「わたし、そろそろ行くわね。午後はブースが埋まりやすいのよ」
    ミリアリアがそう言って別れを告げると、メイリンはぺこぺことこうべを垂れてサイとともに食堂の方へ向かっていった。
    「もうまったく、心配させるんだから」
    ミリアリアは呟くと訓練場の方へと歩き出し、自身の最愛が贈ってくれたピアスにそっと触れたのだった。

    Fin
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