下界で任務を終えて戻った将軍が、何か持ち帰ってくることは珍しくない。
それは時に、適切に処理が必要な妖気を帯びた品であったり、皆で知恵を合わせて正体を調べなければならない重大なもののこともあれば、神官たちの役に立つであろう些細な物のこともある。
その日、南陽将軍が持ち帰ってきたのは、菓子だった。
いち早く将軍の戻りに駆け付けた南風に、風信は小さな箱を手渡した。
「今回の任務はたしか、海を越えた東の地でしたよね」
「ああ。どうやらその地で年明けによく食べる菓子らしい」
南風はおずおずと箱を開けた。
「おお……」
中には、半円の形をした白く柔らかそうな菓子が並んでいた。
「綺麗ですね」
「そうだろう? 名は確か……花……花びら餅と呼ばれていたかな」
「花びら……」南風は一つをそっと手に取って眺めた。
風信ももう一つ手に取る。
柔らかな薄い餅が二つに折られており、そのまんなかはほんのりと薄紅色をしている。
「綺麗ですね。このまんなかの薄紅色はなんでしょうか」「ふむ」
二人は同時に、餅をぺらりとめくった。
「なるほど、紅色の餅が挟まってるんですね。細かい作りだ」
ほほうと二人で嘆息する。
「ところでこの刺さってる茶色い棒みたいなのは……」南風が言うと風信も眉根を寄せた。
「さあ」
二人の目が合う。
「食べてみよう」「食べてみましょう」声が重なる。二人は同時にぱくりと口に含んだ。
ふわりと広がる甘い味を楽しみながら無言で咀嚼する。二人の喉が同時に上下する。
「これは……」「ゴボウか?」
風信がすっと茶色いものを抜き取り、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「あの野菜がこんな優雅な変わり身をするとは」「驚きですね」
二人が頬張る音が静かにこだまする。
「これは美味しい茶が欲しいところだな」と風信が言う。
「ちょうど良質な茶葉はあるんだが、どうも淹れ方に自信が」
「すみません……俺もです」南風も肩を竦める。すると風信はにやりと笑ってこめかみに手を当てた。
「おい、慕情」
少しあけて続ける。「さっき下界から戻ったのだが、お前に至急尋ねたいことがある。南陽殿に来てくれないか」
さっきよりも長い間が空く。
「ああ、それに菓子もあるぞ。なんか良く知らんが洒落てて、旨い。上質な茶もあるから淹れておく」
その途端、耳元で叫ばれたようにびくっとする。
「……え? どうって、茶なんだから湯を沸騰させて注げばいいんだろ? 茶器もなにか適当なのがあったはず……は? 冒涜? 何を言っ……」
一瞬無言になり、風信はこめかみから指をはずした。
「さあ、少し待とうか、南風」
風信はにやりと笑った。
「今頃、お茶くみ将軍と上質な茶器がこちらに向かっているはずだ」