「……いいか?」
唇が触れ合う寸前、まともに顔も見えないような近さになってから問う。それが、タキのやり口だった。ユージンはまたかと思いながらも、いつもの如く唾を呑むことしかできなかった。囁くような声と共に湿った吐息がかかる。こんなのはもう、キスしているのと同じだろう。そもそもこの状況で逃げ出さず、顔すら背けずにいるのは、ほぼ頷いているようなものだというのに、何の確認をされているのか。それでも、形だけでも嫌がったり、拒んだりする気は起きなかった。もし徒にそうしたことで、次が無くなるのが、——終わってしまうのが怖かった。タキは見切りをつけるのが早い。だからといって、潔く頷こうとは思えなかった。恥ずかしいからとか、悔しいからとか、そんなつまらない理由ではない。一度でも頷いて、受け入れてしまったら、それこそ終わってしまうような気がした。ならば、何者にもなれないままでいいから、触れ合っていたい。愚かにも、ユージンはそう願ってしまっている。
返事を待たずに、唇が重ねられる。ぐっと体を強張らせたのがバレたらしく、タキにふ、と笑われた。キスをするのか、笑うのか、どちらかにしてほしい。そう、怒ってやりたいのに、ユージンはうっかり満たされてしまっていて、寧ろ離れないように自ら唇を押し付けてすらいた。タキの舌がぴたりと閉じた唇のあわいをなぞるので、されるがままに口を開くと、突然タキにぐっと肩を押された。
「いいのか?」
「……は? おい」
「ん?」
ん? ではない。口を開いたのだから、いいに決まっているだろう。抗議を込めてタキを睨み上げると、今にも吹き出しそうな表情をしていた。この男、ユージンの反応を面白がっている。いつも何かのトリガーでもあるかのように、いいかと聞いてくるから漠然と恐れていたのだが。
「……俺の考えすぎか?」
「なんだ?」
「…………いや、いい。もう、いいから」
「いい?」
「いいと言っているだろう!」
「声でか……」