ワンライまとめ平々凡々
とある休日。男は翻訳の仕事に区切りを付けてキッチンへ再び珈琲を淹れにリビングを横切ろうとした時、横目に入った青年の格好が如何にも彼不相応で思わず立ち止まった。
男と同居している青年は、リビングに扶持された黒色のカウチに座り映画を見ていた。奥底まで暗然たる黒が侵食する、ミルクや砂糖も入れていないであろうコーヒーが並々と注がれたコーヒーカップを片手に足を組んだ姿で。また、カウチに隣接されたセンターテーブルにはシガーケースらしきものと一冊の文庫本(分厚い英書だと考えられるもの)が置かれている。
男は青年が己に気が付いていないのを余所目に、青年の隣へと腰を下ろした。
「面白いか」
青年は男の気配に気が付いていなかったのか、大きく肩を上下させると何事も無かったのかのように組んでいた足をそろりと戻した。
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