ズブリと腹に刺さるナイフ。
気付いた時には、視界に火花が散っていた。
「は」
遅れてくる痛みに、ワースはヒュッと息を飲む。炙るような熱さを持った下腹部を認識すると共に、大量の脂汗が吹き出た。
「はっ、ぁ、は」
ガクガクと震えるままに足元が崩れ、ベシャリと地面に転がった。血溜まりの中で浅い呼吸を繰り返すワースに気付いた誰かが悲鳴を上げ、連鎖するように周囲に喧騒が巻き起こる。
「っ、ぁ、マッドロス!」
気怠く軋む身体に、気合いで最適解を叩き出させる。半狂乱に叫び声を上げる男を泥で拘束した瞬間、カラン、と杖が手の平から滑り落ちた。
ワースは淡く靄がかる視界で考える。
何でもない日のはずだ。マーチェット通りで日用品を買って、昼飯でも食って帰るかと考えていたぐらい普通の日常。こんな見ず知らずの男に刺されるなんて予定は今日のワースには無かった。
5681