Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    renka_rikaoro

    @renka_rikaoro

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 60

    renka_rikaoro

    ☆quiet follow

    バルサーが弱る話です ㌦がずっと眠ってしまう話

    それが強さなんじゃないのか 幾度となく繰り返されるゲーム。それは此処、エウリュディケ荘園に初めて足を踏み入れた時から変わらない。

     今日も今日とて変わらず命を懸けたゲームが始まる…─とは言っても、この不思議な荘園はゲームが終われば付けられた傷も痛みも全て無くなってしまうから驚きだ。相変わらずどういう原理をしているのか全くわからない。
     試合を有利に進めるべく、回路を弄って繋げることは出来ても荘園のゲームのシステムに関しては何もわからなかった。ナイチンゲールに尋ねたこともあったが、彼女も荘園の不思議な力については知らないようで徒労に終わった。

     わからないことは正直あまり好きではなかった。わからない状態が続くと気分が悪くなる。それ故初めのうちは原理を解明すべく徹夜で荘園を調べ尽くしたが、一向に手掛かりは掴めず、この私が“諦める”なんてらしくないことをした。いや、正確には私の完成させたいものと天秤にかけて後者を選んだまでに過ぎない。
     荘園のシステムを解明するよりも私にはすべきことがある。…そうして私の頭からは荘園のシステムのことなど抜け落ち、自分の発明について考えを巡らせる日々を送ることとなった。

     しかし私はこの事を後に後悔することとなる。それは数週間前まで遡る─・・・


    --------


    「…アンドルー。」

    「ルカ、あと新規の暗号機はあるか?」

    「今繋ぐから…あっち、あの暗号機が最後になるからよろしく頼むよ。」

     暗号機は残り2台。自分が回しているところともう一つを上げきれば通電出来るところまでゲームは進んでいた。ゲーム開始から祭司のジルマンがかなりの時間ハンターを牽制してくれたおかげだ。
     救助職のアンドルーは、ジルマンが頑張ってくれている間は解読しかすることがないために半ば気が抜けているような気がした。くれぐれも油断は禁物だぞ、なんて声を掛ければわかっていると言わんばかりの顔で睨まれてしまった。そんな少しだけ子どもらしい彼の反応に笑えば余計と怒らせてしまったのかぷいとそっぽを向かれてしまった。これは後で謝罪をしておかねばと考えつつ解読に集中しているとあっという間に暗号機は残り一台となっていた。それを確認した瞬間にジルマンがダウンした通信が入り、ようやくアンドルーの出番がやってきた。『解読中止助けにいく!』とアンドルーからも通信が入り、私は最後の暗号機に取り掛かった。



     結果は3逃げだった。ジルマンのチェイスとアンドルーの無傷救助、加えてそこからジルマンを庇っての負傷。そして中治りを発動させて見事に3人脱出を果たし勝利をもぎ取った。

    「やったな、ジルマンくんとアンドルーのおかげだな。」

    「今日は調子が良かったわ。クレスさんも庇ってくださってありがとう。おかげで最後のチェイスも伸びたわ。」

     試合後、廊下で労いの言葉が交わされている中、愛しい恋人はコミュニケーションを取ることが苦手なためかそそくさと部屋へと帰ろうと歩みを進め始めた。しかしそれをジルマンによって引き止められて居心地悪そうに視線を彷徨わせている。

    「僕は何も…チェイスをしたのはジルマンだし。も、もういいだろ。僕は部屋に戻る。」

    「ああ、アンドルー。後で君の部屋に行っても?」

    「っ……勝手にしろ。」

     照れ屋な彼からの了承得てにこりと微笑み返すと、横にいたジルマンから「お熱いこと。」と茶化されてしまった。それに冗談混じりで返せばジルマンは半ば呆れを含ませた笑みを湛えながら軽く手を振って部屋へと戻っていった。そんな彼女を見送りながら私もひとまずは自室に戻ろう、と歩き始めた。それと同時に、空気の読めない私の頭は新たなアイデアを生み出し、思わず引き攣った笑みが溢れる。
     
    「ヒヒ、そうか…!応用を効かせばあの問題を解決出来るかもしれない…!」

     思い立ったが吉日、早速私は部屋へと大急ぎで戻り、思いついたアイデアを紙面に書き殴った。相変わらずブツブツと呪文のように独り言を呟きながらアンドルーとの約束も忘れて没頭した。

    ─それがこんな結果を招くだなんて。



     しんと静まった部屋に規則正しい呼吸の音だけが響く。私はそれを聴きながらじっとただ座っていた。

     アンドルーが目を覚さなくなった。それに気づいたのはあの発明に没頭して三日が過ぎた頃だった。
     三日が過ぎた後約束を反故にしてしまったことを謝罪するべく、菓子折りと紅茶を持って彼の部屋を訪れた。

     ノックをしてみるが返事はなく、最初は怒っているのかと焦りを覚えたが、謝罪をすればきっと許してくれるだろうなんて甘い考えをしていた。もう一度ノックをして私が来たことと謝罪をしたいと声を掛けるが、向こうからは全く返事が返ってこない。それどころか物音ひとつしなかった。妙な違和感を覚えた私はドアノブをそっとひねる。彼がもし出掛けているなら改めよう、と思っていた。けれどドアノブはすんなりと回り、ガチャリと音を立ててドアが開いた。

    「…アンドルー?」

     開いたドアに驚きつつ、部屋の主を呼びかけるがやはり返事はない。鍵を掛け忘れでもしたのかアンドルーの姿は見えない。後で「ちゃんと鍵は締めなきゃ駄目だぞ」と言おうと思いながら菓子と紅茶の乗った盆をベッドサイドのテーブルに置こうとした時、ベッドの中から小さく規則的な呼吸音が聞こえた。

     人がいたことに驚き、思わずテーブルの上に盆を落として派手な音が鳴ったが、ベッドの中の人物は目を覚ますことなく、すうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。

    「な…なんだ君寝てたのかい?はは、駄目じゃないか鍵も掛けずに寝てしまうなんて、無防備すぎるぞ。」

    「………」

     こつんと額に拳を軽く当てて叱るように声を掛けるが、ベッドの中のアンドルーが目を覚ますことはなかった。

     しばらくしたら目を覚ますだろうとアンドルーの部屋にあった比較的易しい文章で綴られた本を読んでいると思いの他集中してしまい、気付けば数時間時間が経っていた。それでもまだアンドルーが目を覚ますことはなかった。

     よほど疲れて深く眠っているのか、明日にまた来ようかと思案している内に、もしかしたらこのまま目覚めないのではと一抹の不安を覚え、私はアンドルーを揺りながら声をかける。

    「アンドルー、アンドルー起きて。謝りに来たんだ。ちゃんと君の好きなお菓子も持ってきたよ。」

     いつもなら、いつもと同じだったらこれでアンドルーは起きる。案外食いしん坊な彼は好きなお菓子の話をすればどんなに眠くたって目を覚ましてくれる。…いつもなら。

    「…アンドルー、なあ、起きてくれ。謝る、君との約束を破ってしまったことを謝りたいから…」

     どれだけ揺すっても声をかけてもアンドルーが目を覚ますことはなかった。目の前が真っ暗になっていくような錯覚を覚えた。これは覚えがある。昔、母が亡くなった時とよく似ている。駄目だ。絶対に駄目だ。そんなことは絶対に。二度とあの喪失感を味わいたくない。そう考えた時には自然と身体は動き、眠っているアンドルーを抱えて医務室へと走り出していた。

    「ダイアー!ダイアー医師はいるか!?」

    「る、ルカさん落ち着いてなの。エミリーは今試合に…」

    「試合?!いつ、いつ終わるんだ!アンドルーが…!アンドルーがこのままじゃ…!」

     この荘園に来て初めてここまで動揺した、冷静を欠いた言動だ。その勢いに庭師のウッズも只事ではないと悟る。

    「アンドルーさんがどうしたの?眠っているように見えるけど…」

    「ああ彼は眠っている、けれど何をしても目を覚さないんだ!今私がこうやって抱えて走ってきたというのにそれでも起きない…部屋でも色々試したんだ、いつもならすぐに目を覚ますのに…これは普通ではない、だから早く医師に診てもらわないと…!」

     焦り混乱する私とは対照的にウッズは冷静に話を聞き、とりあえず医務室のベッドにアンドルーを寝かすように促す。
     ベッドに寝かす時もアンドルーはやはり目を覚さなかった。その様子は寝ているというよりも…

    「大丈夫なの、エミリーが来たらすぐに診てもらいましょう、ね?」

     普段から溌剌として天真爛漫な彼女が珍しく不安げな顔でこちらを窺ってきた。ウッズから見てもアンドルーの眠りは通常ではない事なのだろう。ふぅ、と一つ溜息を漏らし、ベッドサイドの小さな丸い椅子に腰を掛ける。ウッズは「試合が終わったらエミリーに直ぐに行くよう伝えるわ。バルサーさんも無理はしないでね。」と残し部屋を後にした。

    「………君はいつから眠っているんだい?」

     返事はない、けれど話し掛けていないとこちらが参ってしまう。はあ、と大きくため息をつき、祈るように手を合わせて目を瞑る。どうかアンドルーが目を覚ましてくれますように、と。

     しばらく経った頃、廊下から駆けてくる音が聞こえ、すぐにダイアーが部屋に入ってきた。

    「バルサーさん、クレスさんが目を覚さないってエマから聞いたのだけど…」

    「ああ、ただ深い眠りについてるだけなら良いんだが…大きな音を立てても、声を掛けても…揺すってみても目を覚さなかったんだ。人体については詳しくないから分からないのだが、それほどまでに寝入ってしまうことはあるのか…?」

    「わからないわ…突然眠り続ける病はあまり私も聞いたことがないの。…一通り他に異常がないかだけ調べさせてもらうわ。」

     そうして「検査をするから、」とダイアーに言われてやむなく私は医務室を後にする。自室へ戻る途中もアンドルーのことが気掛かりで足取りは重かった。


     自室へ戻った私はやりかけの発明に手をつけてはみるものの、思うように捗らず椅子にもたれ掛かりながら深くため息をつく。昔の自分ではあり得ないことだった。発明を最優先する私は他人のことを気にしたことなど一度もなかった。…一度だけ、発明のことではなく母のことで父親に憤りを覚えたことはあれどそれ以外は全て発明絡みのいざこざだ。

     母が亡くなった時、あの温かな優しい手は温度を失い、目の前が真っ暗になった。これからは母が私に微笑み掛けてくれることも、優しく抱きしめてくれることもないのだと瞬時に悟った瞬間、どうしようもない絶望と事の発端である父親を心の底から憎んだ。その絶望と怒りのまま家を飛び出した。それからはより一層他人との関わりよりも発明を優先させるようになった。そんな私が今、母を喪った時以来感じたことのない恐怖に心が冷え切っていた。
     募る不安に耐えきれず、私は再び医務室へと向かった。はやる気持ちを抑えながら廊下を進み、たどり着いた医務室のドアを静かにノックをすればダイアーが応える。

    「…バルサーさん?」

    「すまない、その…中で待っていてもいいかい?」

    「構わないけれど…もう少し検査に時間が掛かるから自室で待っていた方が─」

    「いや、それが困ったことに全く集中出来なくてね、不思議だ。…部屋にいるよりここの方が落ち着くんだ。頼む、ここで待たせてくれ。」

     そう遮るようにして言えば医師は小さくため息を吐きつつ了承してくれた。くれぐれも邪魔はしないように、と釘を刺され、私は医務室の端の椅子に腰掛ける。


     …どのくらい経っただろうか。恐らくそこまで時間は経っていない。壁にかかる時計を見遣っては深く息を吐く。君がここまで私の心を侵食しているとは思わなかったよ、と未だに眠ったままであろうアンドルーに向けてこぼす。

     しばらくしてベッドをぐるりと囲んだカーテンの隙間から医師が顔を出し、こちらへと言うように手招きをした。

    「!アンドルーは…?!」

    「静かに、調べたけれど特に異常は見当たらないわ。本当に眠っているだけ、…起こそうと思って色々試してみたけれどダメみたい。こうなってくると病気よりもゲームにおけるバグの可能性も…」

    「バグ?そんなバグがあるのか。」

    「可能性の話よ。まずは色々な仮説から検証してみないと何も言えないわ。ナイチンゲールに訊ねてみて頂戴。そこでバグだと分かったらまた私に教えて。」

     ダイアーは用事を思い出したようで、それきり私にアンドルーを任せて部屋を出ていった。

     漸く二人きりになれたところでアンドルーが目を覚さなければ何も楽しくない。未だにすやすやと眠り続ける恋人にどうしたものかと何度目かの深い息を吐いた。何時もならすぐに過ぎてしまう時間が永劫とも思えるほどに長かった。





     その後医師が戻ってくるまでアンドルーの様子を見ていたが当然目覚めるはずもなく、あとは専門である医師の彼女に任せて私はナイチンゲールの元へと向かった。

     豪奢な装飾が施された重い扉を開けばまるでそこだけが別世界のように暗く沈んだ部屋が見えてくる。部屋の中の物は重力など知らぬ顔で浮かび上がっている。部屋に足を踏み入れると肺から上がってきた空気がごぽりとこぼれ出る。此処はそう…恐らくは水の中だ。しかし息苦しさを全く感じない。とことん不思議な世界だと思いつつ奥の方で立ちつくす女性に声をかける。


    「…アンドルーが目覚めないんだが。」

    「承知しております。」

    「…その割には対応が遅いと思うが。」

    「バルサー様どうかご容赦を。現在荘園では不明なエラーが発生しており、随時対応していく所存でございます。サバイバー及びハンターの皆様に多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません。早急にエラーの発生元を発見し対処に…」

    「つまりはアンドルーが目覚めないのはバグなんだな?」

    「…はい。恐らくその可能性が高いかと。」

     ナイチンゲールの言葉を遮り聞き返せば事もなげにそう返答をされ、眉根を寄せた。…恐らく彼女からすればよくあることなのだろう。しかし病気ではなく、バグだとすれば荘園側が対応してくれるのを待てばアンドルーは目を覚ます、はず…そう思うと自然と肩の力が抜けたようでひとまず安堵する。

    「…何時ごろ直るんだ?」

    「未だ調査が済んでおりませんので、具体的な時間をお教えすることは出来かねます。」

    「わかった。詫びはいいから早く復旧作業を進めてくれ。」

    「かしこまりました。ご迷惑をおかけいたします。」


     ナイチンゲールの部屋を抜けると気付けば重苦しい扉は閉められ、元の世界へと戻ってきたようなそんな感覚に陥る。しかと地面を踏み締め、きた道を戻れば医務室からベッドを運ぶ様子が見えた。

    「!お、おい何して…」

    「ん?ああ、ルカか。アンドルーのことなんだが暫く部屋で様子を見といてくれるか?医務室のベッドが足りなくてよ、他にも倒れた奴がいるから一応エミリーに診てもらおうって話なんだ。」

    「なるほど…わかった。他に倒れたってのは…」

    「皆とりあえずは眠ってるだけだから心配はないと思うぜ。多分アンドルーと一緒だからまたバグかもな。」

    「…そう、だな。ナイチンゲールにも聞いてきたが何かしらエラーが発生しているそうだ。それが直れば皆きっと目を覚ますはずだ。」

    「そうなのか!よかった…もうずっと寝たままかと思って正直ちょっとビビったんだよな。ルカもそうだろう?」

     「…嗚呼、正直らしくない事もした。それくらい焦ってはいたと思うよ。」

     そう言って笑えばオフェンスのウィリアムも笑いながら「そうだよな!よかった、…それから気をつけろよ?お前が寝ちゃうこともあるからな!」とぽんと肩を叩きアンドルーが眠るベッドを私に預けた。

     預けられたベッドをどうしたものかと考えつつ、ひとまずはアンドルーを部屋のベッドに戻そうと廊下を進む。途中会ったサバイバーに軽く状況を説明すれば、皆一様に眉を下げ早く目覚めるようにと祈ってくれた。─本当に、一刻も早くバグが解消されてほしいものだ。

     アンドルーの部屋に着き、眠る彼を医務室のベッドから彼のベッドへと移動させるがもちろん目覚めることはなく、私はベッド脇の小椅子に腰掛ける。



     それから毎日私は彼の部屋に行っては隣に腰を下ろして日々を過ごした。そして話は冒頭へと戻る。

     数週間が経ってもバグが解消されることはなかった。否、正確には未だにアンドルーだけが目覚めない状況へと変わっていた。

    「…アンドルー、おはよう。もう朝だよ。」

     声を掛けるがやはり返事はなく、規則正しい寝息だけが静かに部屋に響く。

     陽に弱い彼が火傷をしてしまわないようにしながらカーテンを部屋が明るくなるよう少しだけ開ける。今日の朝食は彼の好きなベーコンエッグだ。彼の分と自分の分、と二つを机の上に置いては未だ目覚めぬ彼を見つめる。

     栄養失調にならないようにと医師が付けた点滴はあるが、口から食べ物を摂取しなければやはり身体は弱っていくもので。荘園に来てからちゃんとした食事が取れるようになり、痩けていた頬が幾分かふっくらとしてきていたところだったのにこれではまた元通りになってしまう。

    「…頼むからもう一度私に笑いかけてくれ。」

     自分でも信じられないほどか細く不安げな声が喉から溢れた。このまま彼が目覚めなかったら?もう2度と私の名前を呼ぶ声が聞こえなかったら?そんな嫌な想像ばかりが脳を占めていく。ただのバグだと何度も自分に言い聞かせた。けれど皆が目覚めていく中彼だけは目を覚さない。
     すうすうと心地良さそうに眠る彼を私はもうどれほど見つめているのだろうか。ここのところ研究のアイデアも上手くまとまらず、発明にすらも打ち込めず、愛しい彼と触れ合うことも出来ていない。手を伸ばせば愛しい彼の手に触れることは出来る。…温かい、彼は生きている。けれどそのルビーのように美しい瞳は瞼の下に隠れたまま。伽話では王子のキスで姫を目覚めさせるがこれは現実だ。けれども、もうそれくらいしか浮かばなかった。ゆっくりと腰を上げて彼に覆い被さるようにして髪を梳き触れるだけの口付けをそっと落とす。久しぶりの接吻、自然と心が落ち着いた。しかし当然彼が目覚めることはなく、諦めてすっかり冷めてしまったベーコンエッグに手をつけようとしたその時僅かに彼が身動いた。

    「…アンドルー?」

    「……うぅん…、るか…?」

     気づけば私はテーブルを倒す勢いで横になったままのアンドルーに抱きついていた。勢いが強すぎたのか彼が「痛っ…な、なんだよ!」と言ってきたがなんだよと言いたいのはこちらの方だ。どれほど私を不安にさせたかわかってもらわねば困る。

    「あんどるー、あんどるー、私が見えるかい、私の声が聞こえるのか?なあ、答えてくれアンドルー。」

    「…見えるし聞こえるに決まってるだろ、僕は目はちょっと悪いけど見えなくはないし聴力だって悪くない…」

    「嗚呼本当に、本当に目が覚めたのだな。……よかった…!」

     ぼろぼろと涙を溢して喜ぶ私にアンドルーは少し戸惑っていたが何か察したのか私を抱き寄せて優しく私の頭を撫でる。まるで母親のようだ。

    「…ごめん、僕のせいか?」

    「…君のせいじゃないけど君のせいだ。」

    「なんだそれ、意味がわからん。」

    「こんなに私を不安にさせたんだ。責任を取っておくれよ。」

    「…あんたでもそんな顔するんだな。わかった、何でも聞いてやるよ。迷惑をかけたな。」

     そうやって彼は笑っていた。少々子ども扱いされたような気がして腹が立ったがそれでも彼がこうして私を見て私を認識してくれてる喜びの方が大きかった。嗚呼どれほど私はこの男に弱くさせられてしまったのだろうか。


    「…私は随分と弱くなってしまった。責任をとってくれアンドルー。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💕💞👏🙏💗❤💖☺☺☺☺☺☺☺😭😭😭😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works