ジュース飲んでる太刀迅 迅は太刀川に初めて会った日のことをよく覚えている。スラックスのポケットに手を突っ込み、猫背気味にのしのし歩く横顔に重なって見えたのは、数多の可能性が収束する分岐点だった。絶対に回避すべき絶望、その本流を大きく逸らす境目に、彼は立っていた。
「太刀川さんっておれとはじめて会った時のこと覚えてないでしょ」
何の気なしに問いかけると、太刀川はジュースを飲む手を止め、不服そうな顔を向けた。
談話スペースの自販機はかなり充実しているのに、太刀川が選ぶのはだいたい変な飲み物だ。ランク戦で迅に勝ち越すたび、太刀川は定番以外の、誰が飲むのかというようなものばかりを強請る。迅は今日、フルーツ味の炭酸を奢らされていた。
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