シレン小話:ミドロ種 気持ち悪い。剣も盾も此奴によってボロボロにされてしまったし、何より身体を流れるこの液体が気持ち悪い事この上ない。
(これ以上の事をされないのが……唯一の救い……!)
どろり。濡れた服が身体にぴっちり張り付く感覚。と、服の中にまでそれが流れ込み、ゾワゾワとする感覚が余計に気持ち悪さを募らせる。元々薄着なのもあり、上位種になればなる程寧ろ溶けているのでは……という錯覚にすら陥る。水も滴る――なんて、この状態では全く似つかわしくない言葉。
自身に着いた粘り気のある液体を飛ばしながら、目の前の憎き彼奴を散らすように錆切った剣を振るう。分裂されて更にドロドロにされ舌打ちするが、構わず斬り続ける。大丈夫、これはそのまま捨てていい剣盾だ。階段も近い、いつか倒せる。
どうせなら鍛錬の糧にしてやると無心で攻撃し続けた。
――ひゅうううう……。
「! は、っ……風か……!」
丁度倒し切ったところで、旅の神の警告。風が吹く程粘っていたのか……と考えたのは一瞬で、濡れ切った身体が冷えてふるりと震える。今の自身の状態はきっと、自分にも魔物にも、少々毒かもしれない。
流石にこれは上手い事脱出の巻物でも見付けたら素直に帰ろう……と、シレンは溜息を吐きながら剣と盾を付け替え、先へ進むのだった。