どうか私の色を ちょこん、と立つ姿は贔屓目で見ても可愛らしい。
そう、後ろで見ていた信之は思った。
たとえそれが婚約の話し合いでやってくる男を迎えるためだったとしても。
「真田家にようこそ、豊臣グループの御一行様。この真田昌幸が屋敷一番の応接間にご案内致しましょう」
「うむ」
「三成くん。幸村さんと一緒に遊んでくるといい」
お仕事の話はつまらないからね、と話す半兵衛は昌幸の足元でそわそわしている幸村を見てにこりと笑った。
六月にぴったりの紫陽花の着物を纏う少女はこくりと頷いてから前に出てから振り返る。
おそらくは父と兄に確認のためであろうそれだが、ここで拒否されるわけが無く……三成の前に幸村はやってきた。
「昨日と今日は水無月では珍しくよく晴れておりまする、お庭の鯉を見に行きませぬか?」
「……見せてみろ」
今世の幸村も和装を好むと知った半兵衛によって今日の三成は白と紫の袴姿だ。
即ち二人が並んで調和が取れていると気付いた昌幸はフォーマルな格好でやってきた秀吉と半兵衛にやるねぇと呟き、信之も眉間に皺を一つ増やすこととなった。
─まずは服を褒めること、幸ちゃんなら可愛いの着てそうだけどさ……。でも感想をきちんと正直に言ってあげたほうがあの子は喜ぶかな。
そう言った男は三成の保護者の友を名乗っていた傾奇者。
ただ純粋にこの知らない感情について、会いに行くことについて相談したところこう返ってきたのだ。
幸村の着物は桃色に紫色、水色の紫陽花が描かれていることには三成は単に綺麗だと思った。
しかし。
「真田、その着物は」
「お手伝いさんが選んでくれたのでござる」
「……その、帯もか」
「はい」
違う。
そう三成は思った。
「貴様のつける帯に青は似合わん」
「三成殿?」
揺れる髪にもあの色があり、三成は持ってきたそれを彼女に見せた。
「髪紐、でござるか?」
「つけてやる、後ろを向け」
手早く青い紐を解いて三成が用意した硝子玉がついたその髪紐で結い直す。
紫色の髪紐に白い硝子玉。
齢五歳の三成が慶次を連れて出かけたのは彼女への贈り物を考えるためだったのだ。
蝶結びで仕上げると三成はどこか、安心したかのような感覚に気づく。
「……できたぞ」
「ありがたい、こちらは?」
「贈り物もなしに訪れるような無礼者だとでも思っていたか」
「いえ……こちらの髪紐、大事にいたす」
「……お館様、うちの小倅殿がまた随分と幸せそうな顔をして」
「それを引き離すというのは酷な話よな、昌幸」
その光景は心配する保護者達の話し合いの場からも見えていた。
武田グループ会長である信玄は苦笑してから対面にいる秀吉と半兵衛を見遣る。
幸村が武田グループの中でも特に信頼のおける真田家の姫であるため、この話し合いに出席したのだ。
半兵衛は青い紐に大層不満げで自分の色である紫と白の髪紐に結び直した三成に思わず吹き出しており、秀吉もどこか雰囲気が柔らかい。
「親父殿、幸村がまだ五つということをお忘れか」
「倅殿、そんなに怒らないで頂戴よ。女として生まれ変わってすんごい美少女になっちゃったから今の時点でも縁談が引っ切り無し……ここでお友達からって手もありだと思わんかね?」
「俺にはあの様子が"お友達から"には到底見えませんが」
「すまないね、信之くん。女の子に贈り物をと考えて得意そうな人には相談したんだけどね」
人選を誤ったかも知れない。
そう告げた半兵衛に信之は静かに首を振った。
「いや、髪紐を選んだのはいいと思う。幸村が青い紐で結っているのは俺も良くは思っていなかった」
「倅殿……。ま、今世こそ何にも縛られない穏やかな人生を歩んで欲しいってのは真田家の願いだ」
「政宗くんか……もう既に三成くんとは一度やりあってるよ、あっちも剣道を始めたせいでね」
外を見てみれば手を叩いて鯉を呼ぶ子供二人。
そんな二人を見ていれば誰しも口角は上がってしまう。
「大丈夫、三成くんが遅れを取るわけがない。きっと幸村さんに自分の想いを伝えてくれるさ、そうだろう秀吉?」
「うむ」
「それで幸村が頷いたらこの話、進めるとしよう。それでよいな、昌幸、信之」
「はっ」
「異存はありません」