武士は食わねど、と何かで聞いた言葉ではあるけれど。 澄み渡った秋の空。
夏と冬の間と呼ぶに丁度いい晴天の下、佐和山の城にて三成は気付いた。
火の香りがする、と。
「何をしている」
「あっ、三成様ー! 呼びに行こうと思ってたトコだったからよかった!」
「焼き芋よ、丁度火の扱いに長けた男が客に来ている以上その腕前も見せてもらうついでよついで」
三成の私室から出てすぐの庭。
落ち葉を集めた一角には優しい炎が立っていた。
そこにいる男三人のうち二人は三成の左右、島左近に大谷吉継は中に入っているであろう芋の様子を眺めていた体勢そのままで三成を見る。
そして、火の調整をしている男はにこりと笑んでから口を開いた。
「もうじき焼き上がりますぞ、三成殿も是非」
「貴様も貴様だ、真田。決戦の前に力を使うなど……」
「火の力は溜め込む方が危険で、こうして発散せねばいざという時に必要な炎を出せないのでござる」
幸村がかざす手の先の落ち葉は消えず、燃え上がらず、丁度の良い火加減のようだ。
決戦の前、三成の力になると言ったこの盟友はその準備や作戦を頭に叩き込むためにこの城に滞在している。
真田幸村、武田軍の総大将である男はそう言ってから自分の足元の影に声をかけた。
あと少しだろうか、と。
「そうだね。ちゃんと芋を取ってから消火するんだよ、大将」
「わかっている」
忍との会話で彼らは芋がある状態で水をかけたことがあるのかと理解する。
鼻を通る芋の焼ける香り、それを台無しにされたのかと思った左近が顔だけ出している佐助を見れば半笑いで芋団子にしてやったよと言いながらとぷんと影の中に潜っていった。
「焼けましたぞ、三成殿」
「……誰が食うと言った」
焼き立てのそれを慣れた様子で取り、半分に割って見せれば中まで火が通った証の湯気が三成の目に入る。
座った彼に幸村はそれを差し出し、つい受け取ってしまった彼にお頼み申すと告げて再度落ち葉の山に戻ってゆく。
左近に四つの焼けた芋を渡す彼に三成は呟いた。
「熱くないのか」
「この程度、武田の修行よりかは」
「あちちちっ! これより熱いってやばいっしょ!」
早足で三成の横にごろごろと焼かれた芋を置いてから左近も戻ってゆく。
桶を傾けて消火している幸村の手伝いを始めた彼と入れ替わるようにやってきたのは吉継であった。
「左近と真田が見回りの際に民から渡されたと、言っておったわ」
「何故他軍の将と見回りに行く」
「ヒヒッ、ぬしに見せられぬ娯楽を教えようとでもしたのかもしれぬなぁ。最も真田に鉄火は向かなんだ」
「刑部、しばらく左近には書き物の仕事を与えておけ」
そう三成が告げた時、しっかりと消火を終えた左近と幸村が戻って来てから並んで座る。
そして三成の持つ芋が一口も減っていないことに首を傾げた。
「三成殿、焼けておりますぞ?」
「秋は食欲の秋って言うし、三成様も食べましょうよーっ!」
ばこっと半分に割ってからその焼け具合に感謝しながら頬張る左近。
隣を見てみれば吉継も半分になっている芋を浮かせ、残った方を食べていた。
幸村をちらりと見てから三成も未だに湯気を立ち上らせているそれを口にする。
そして告げた。
「熱い」
「なんと、今水を……!」
「もう持ってきたよ、大将。あ、これ俺様の分?」