(同居人×とあし)夏祭りの最中にて「また来てくださいっす〜!!」
「はぁいユイちゃん、また買いに来るからねぇ。」
屋台の一角。『からあげ』と大きく書かれた看板を掲げ、ユイこと、雨萱は常連客に手を振った。
今日はとある神社で開催されている夏祭りの最終日である。夏休み真っ最中なこともあり、一際客足が多く感じられた。
「う〜ん…最終日だから意外と人来ないかなぁって思ったんすけど、意外と来るっすねぇ…。」
ユイがそんな独り言を呟いていると、
「あの、すいません、唐揚げ12個入り、1つください!」
小学生…いや、中学生くらいの男の子が指をピンと立てていた。
「はいっす〜!おひとつっすね〜!で、串は何本要るっすか?」
「えーっと、俺と、統護と、4つです!」
「了解っす!あれっすか?お友達っすか?」
「家族です!お父さんと、お母さんと、弟と!」
その男の子の顔は、みんなでお祭りに来れて嬉しいと、心底思っているような屈託のない笑顔だった。
(…笑顔が眩しいっすねぇ。こういう子が将来楽しく遊べるように、私らがいるってことっすかねぇ…)
そもそもマフィアと民間人が関わることはないのだが、お祭りで関わっている時くらいは、彼らの幸せを願ってもいいだろうとユイは思った。
「…いいっすねぇ家族。でも、あれっすよ、おにーちゃん。あんまり家族構成言いふらすと、わるーい大人に…なんか、こう、わるーいことされちゃうっすよ?」
ユイは、精一杯の悪い顔をしてそう忠告した。
するとその男の子は首を傾げ、
「お姉さんは悪い大人なんですか?」
と、不思議そうに聞く。
「わーーーーーーるい大人…ってワケじゃあない…っすけど?あれっす!正義のヒーローっす!」
ユイは目を逸らしながらそう言った。正義とは程遠い立場にいる自覚があるからだ。
「正義のヒーロー!かっこいいですね!!」
目をきらきらさせながらその男の子は言う。人を疑うことを知らない子どもというのは、こんなにも眩しかったのだろうか。
「…あ!そうっすそうっす!おにーちゃん、お名前なんて言うんすか?」
「俺…ですか?愛染魅殊って言います!」
えーっと…と、ユイはカバンをゴソゴソと探る。
「魅殊くん、これ、弟くんと一緒に遊んでくださいっす!」
ユイは、魅殊に、唐揚げと共にチケットを手渡した。
「…これは?」
「あそこの射的の特別券っす!私の名前出せば、2.3回はプラスでやらせてくれるっすよ!」
「ほんとですか!!やったあ!…統護、喜ぶだろうな…ところで、お姉さんのお名前はなんですか?」
「ああ!言ってなかったっすね。私は、朱 雨萱っす!ユイ姉って呼んでくださいっす!」
妹になることはあれど、姉になることはこういう時しか出来ない為、ユイは得意げにそう言った。
「了解です!ユイ姉、ありがとうございました〜!!」
魅殊が去っていくと、遠くで頭を下げる夫婦と、その後ろにサッと隠れる男の子が見えた。あれが彼の家族なのだろう。
「家族……いいっすねぇ。私も家族を守らなきゃっすから。」
護衛対象、しかし家族のような結び付きを感じる1人の人物を思い浮かべながら、魅殊に呼ばれた、『ユイ姉』の響きを噛み締める雨萱であった。