透明な朝 日向がブラジルに戻って二年が経ったある冬の日、めずらしく大阪で雪が降った日のことだった。練習終わりのロッカールームで誰かが言ったのだ。「日向が怪我したらしい」と。
「……え?」
「負傷退場したって、ネットニュースに出てる」
周囲の騒めきが一瞬遠のいた。思考が止まり目の前が灰色に染まる。「おい、侑。大丈夫か?」肩に手を置かれ、侑はハッと我にかえった。
チームメイトに上の空で返事をすると、慌ててロッカーからスマホを取り出す。いつもなら思うがままに制御できるはずの指先が、画面上をでたらめにすべった。
記事はすぐに見つかった。第二セットの終盤、スパイクの着地の際に相手コートのブロッカーの足を踏み、右足首を捻ったらしかった。そのまま途中退場し、現在検査中のため負傷の程度は不明。試合後の監督の説明によれば、長期離脱するほどの大きな怪我ではないとある。記事にはさらに、選手やスタッフに両側から抱きかかえられた日向の写真も掲載されていた。眉間に皺を寄せた険しい表情が、壮絶な痛みを物語っているようで。大事ではないことにひとまず安堵したが、侑は小さなその写真からしばらく目が離せなかった。
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