人肌が恋しくなったムコーダさんの話し 嗅ぎ慣れた香りとよく知る気配を感じゆっくり瞼を開くと、獣舎の陰からムコーダが顔を出した。
『こんな時間にどうしたのだ』
「ごめん、起こしちゃった?いや、えーっと、ちょっと人肌が恋しくなっちゃって」
『我は人ではないが』
「いいんだよ」
そう言うとさも当たり前のようにムコーダはフェルのお腹のあたりに身体を滑り込ませてきた。収まりのいい位置を探し、もぞもぞと身体を動かすムコーダのやりたいようにさせ、後ろから見守る。
「あったかい……フェルとこうやって二人きりなのも久々だな」
『そうだな』
季節的にはもうすぐ冬だ。この時間は少々肌寒い。だが、宿屋の中であればまだ冷えることも無いだろう。
などと、無粋なことを言うつもりはないが。
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