…ああ、始まった。あいつのどこで仕入れたのかわからない話
いつもと同じ。月明かりの下、波音が心地いい静かな夜に、またも心地いい静かで俺にしか聞こえない音色が、自己満足の物語を作り出す
くだらないと思いつつ、今日も耳を傾ける
『死に際に1番最後まで残る感覚は聴覚らしいね。最初に忘れるものだから、最後に人は声を求めるのかな。』
……俺の反応を楽しんでるのか、はたまた浸ってるのかは分からないが、後ろに言葉は続かない
「…知るか」
いつものように返し、あれから何も奏でないやつの口は夜に静寂を返した
スマホの電源を落とし、過去の夜明けを思い出す
そうはよく、「僕が死んだら」やら「死に際には」やら死に関連した話をしてきた
前に「死ぬ予定あんのかよ」って聞いたら「どう思う?」って帰ってきた時から、俺はビビって 知るか しか言えていない
それはそれとして、よくもまあ話が尽きないと思ってたよ
悔しいが聞き入ってしまうあの文章力は、世界の小説家が惚れるだろうね。…俺も含めて?
だからこそ、スマホに残る同じ言葉を繰り返すだけのそうは、小説家を目指していたとは思えないほどつまらなく退屈だった
くだらないことをしてる自覚はあった。録音された声に返事をする毎日に。だから今日でもうやめんの
よく夜にふらつき、ついにはこの世の散歩コースから外れた間抜けな小説家との待ち合わせ場所は、どうやらこの橋が交通手段らしい
「忘れる前に迎えに行ってやる、畜生」
いつも間近にあった海を見下ろし、身を投げる。
また会う日を楽しみにして