「あ、傘忘れた……マジかぁ」
もう少しで梅雨入りが発表されるかというとある日の昼過ぎ。和泉三月がテレビ局を出ようとすると、リュックに折り畳み傘が入っていないことに気づいた。
昨日の鞄と違うリュックにして来たら、折り畳み傘を入れ替えるのを忘れていたらしい。
「お疲れ様、どうしたの?」
後ろからかかった声は九条天。同じ番組の収録だったのだ。
「あー、傘忘れちゃって。昨日使ってた鞄に入れっぱなしにしてたみたいでさ。」
まいったな、と三月はへらりと笑う。駅までは走れば5分くらいか。コンビニを探してビニル傘を買うよりは走って駅まで行った方がいいだろう。そう思っていた。
すると、天が自分の傘の留め具を外しながら尋ねる。薄桃色で柄のないシンプルな傘だった。
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