鉄の心音髪から伝わる違和感はクリムゾンを現実に引き戻すには十分なものだった。意識の浮上とともにここはカジノの異空間だと認識するほど今の生活は長くなっていた。隣から分け与えられる熱に思い当たる節がある。薄く目を開くとこの世界の支配者である金天ボがいつもの笑みで見下ろしていた。束ねていた髪が解かれている。金天ボがもてあそんでいたらしく安眠を邪魔された原因を理解する。
「起こしたか?悪かったな。」
夢うつつな意識が金天ボの言葉ではっきりしていく。クリムゾンの覚醒を口だけで悪びれるが嬉しそうに笑みが深くなるのを隠そうともしない。ポーカーフェイスが大得意のトップギャンブラーが聞いて呆れる。それともあえて喜んでいるとひけらかすための表情か、だがそんな意図読むほど思考は暇していない。時計へ目をやるとまだ深夜を迎えて間もない時間、シャワーも浴びずに意識を飛ばしてしまったらしい。事後の余韻か身体を動かすのが酷く億劫だった。
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