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    wksaiue

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    金天ゾン小説。CPなのでご注意。
    関係持ってる事後の雰囲気。大分ほだされている。

    鉄の心音髪から伝わる違和感はクリムゾンを現実に引き戻すには十分なものだった。意識の浮上とともにここはカジノの異空間だと認識するほど今の生活は長くなっていた。隣から分け与えられる熱に思い当たる節がある。薄く目を開くとこの世界の支配者である金天ボがいつもの笑みで見下ろしていた。束ねていた髪が解かれている。金天ボがもてあそんでいたらしく安眠を邪魔された原因を理解する。
    「起こしたか?悪かったな。」
    夢うつつな意識が金天ボの言葉ではっきりしていく。クリムゾンの覚醒を口だけで悪びれるが嬉しそうに笑みが深くなるのを隠そうともしない。ポーカーフェイスが大得意のトップギャンブラーが聞いて呆れる。それともあえて喜んでいるとひけらかすための表情か、だがそんな意図読むほど思考は暇していない。時計へ目をやるとまだ深夜を迎えて間もない時間、シャワーも浴びずに意識を飛ばしてしまったらしい。事後の余韻か身体を動かすのが酷く億劫だった。
    「夢でも見てたか?三つとも動いてたぜ。」
    「さあな」
    「オレの夢だろ?」
    「自意識過剰め」
    目覚め早々の軽口を適当に流し、鬱陶しく髪に触れる手を追い払った。金天ボは遊び相手だった毛先に感謝するように口付けると、今度はベッドに頬杖を付いてクリムゾンの表情を観察し始めた。隣で男が動く度にベッドが揺れる。寝床を共にしたのは初めてでは無いし概ね許すことにしているが、ジッと見詰める視線は深層心理のどこまで見られているのか検討つかず落ち着かない。
    「何考えてるんだ?」
    底の見えない金天ボを知ろうとは思っていない。適当な質問で奴の気をそらして一刻も早く寝直したかった。いつもなら人のことなど構わず情眠に耽るか、カジノへと帰るか、もしくは空間から姿を消すような自由な男だった。ギャンブル中でもないのに凝視されるなど気分の良いものではない。
    「ここは静かだな。ルーレットで弾ける球も客の息遣いも、トランプが配られた時の擦れた音すら聞こえない。聞こえるのはお前の声と心音だけ。お前しか存在してないみたいだ。」
    「⋯オレはお前の方がよっぽどうるさい」
    直球に投げかけられる言葉は下手なラブロマンス映画の口説き文句みたいで鼻で笑ってしまう。本人は至極真面目であるのがスクリーンから飛び出した異次元の存在のようで可笑しくてならない。短くない時間を共にして分かったが、金天ボは融合戦士であるせいかはたまたギャンブル中毒であるせいか、一般常識の知識はあるようだが所々ずれた話をする。あまりにも常識が通じないと肝が冷えるが慣れとは怖いもので前ほど毛嫌いすることは無くなった。
    「オレとお前の鼓動どっちが早いと思う?」
    「フッ⋯飽きないなお前も」
    いつもの調子で金天ボは賭けの話を持ち掛ける。中毒というよりこの男の存在理由なのだ。呆れを超えて思わずクックッと笑みが溢れてしまう。気分が良いので乗ってやることにした。
    「そうだな。お前は遅そうだ。血が通ってないゾンビみたいにうす鈍そうだ」
    「オーケー。ほら答え合わせだ。」
    有無を言わさずクリムゾンの手を掴み「Time is Money」の胸に当てる。伝わってくる心音は予想よりはるかに早い。全速疾走したかと思うほどにドクドクと刻んでいた。
    「どうだ?」
    「···早いな」
    「融合戦士だから心臓も二倍なのかもな。」
    「適当だな」
    「お前だって自分の身体の根拠なんて分かんねぇだろ?」
    それはそうだ。何も言い返せずにいると金天ボは今度は眠るクリムゾンの胸に自身の耳を当てた。
    「ッ!おい、」
    「外しただろ。少しでいい。」
    金天ボは息を潜めてクリムゾンの心臓の音を聞いている。困った事に胸から伝わってくる熱を振り解く気がまるで起きなかった。ギャンブルに興じる金天ボの身体に偶然触れたことがあるが、喜色満面の表情と比べ氷のように冷たかったのを覚えている。きっとどんな顔をしていようが全て演技で、鉄のように動じないギャンブラーの心臓が見えた気がした。だから初めて身体を重ねた時、額に汗を滲ませ頬を撫でる手が自分より熱かった事に酷く安心した。心音もそうだ。この男が異常な存在である事を理解しながら生き物らしさを垣間見ると確かに生きている証明を示されたようで、何とも形容しがたい気分になる。
    大の男に甘えられるように頭を預けられる経験など無く、思わず上げた両手は手持ち無沙汰に空を切り、暫し思案するがついには金天ボの髪へと辿り着いた。先の男の行動を真似て何が面白いのか考える。クリムゾンは三つ目を揃って細くし静かに観察した。金天ボの髪は毛先に向かうほど色素が薄い。窓から差し込む街灯の明かりに透けて消えてしまいそうだ。まるでこの男が不明瞭な存在である事を物語っているようだった。感傷的になるなど柄じゃない。だが殺風景な寝室など見渡してもあまりに退屈で時間などさほど潰せない。暫く待てども動く気配がない男に痺れを切らして声をかけた。
    「⋯⋯おい、まだか」
    少しという曖昧な制約だといつまで身体を許し、いつから拒絶すれば違和感を持たれないのか分からない。確認しておけば良かったと初歩的なことを考えて後悔する。最早、理由が無いとどこまで金天ボを受け入れていいのか自分でも分からなくなっていた。
    「お前の方がゆっくりだ。それに、あたたかい」
    質問と関係無い返事にクリムゾンは唇を噛み締めた。長い時を共にしてしまったせいか、あれほど憎らしかった男の熱に眠気すら襲っていた。意識を離すなと理性が叫ぶ、心地良く感じるなど持ってのほかだと。既にこんな関係を持ってしまって今更だが当初も確か理由があった筈だ。そうでなければこんな恋人のような時間を過ごす筈がない。
    だがクリムゾンは初めて金天ボに触れた日を覚えていた。酒とギャンブルの喧騒に塗れる日々を理由にして、賭けで敗けたとかドラッグでおかしくなったと理由が付けばどれ程自分を慰められただろうか。頑なに賭けのテーブルには乗せずに自分の意志でその選択を選んだことを嫌味たらしく目に焼き付けられたせいだ。理由とは何だったか。建前など忘れたがあの日に戻れるならきっと別の選択をする。そんな不毛な思いを巡らすクリムゾンに構わず金天ボは言葉を続ける。
    「お前のここはずっと静かだな。いつも冷静にゲームを俯瞰してる。判断力は申し分無いがお前自身が主役に立っている自覚が無い。その能力のせいか?だから決定的なミスに気付けないんだ。お前を見付けたあの日もそうだ。」
    圧倒的な力の前で成すすべなく敗北し、ついには地獄に突き落とされた日だ。改めてその負かされた本人の口から聞きたくもない。
    「⋯思い出したくもねぇ」
    「お前の長所であり短所だな。能力に囚われてると停滞するぞ。」
    「ご助言どうも」
    「何個か潰したら意識が変わるか?」
    血の気が引く提案にクリムゾンは思わずヒュッと息を飲んでしまう。冗談でこんな事言う奴じゃない。そしてこういう所がクリムゾンがこの男を信頼出来ない所以だ。金天ボはゆっくり顔を上げて再びクリムゾンを見下ろした。光すべてを飲み込んでしまうような瞳で。
    「俺はずっと、お前をプレイヤーにしたかった。俺と一緒に楽しむ、オレしか見えないお前が見たい。」
    (⋯見てるだろ、ずっと)
    こんな異空間に囚われ働かされ、ギャンブルにも付き合わされ、時間外にだって会っているのにこれ以上何を望んでいるのだ。この男が何を求めているか分からないが正直知りたくもない。理由の分からぬ期待と理解出来ない存在への恐怖がクリムゾンを襲うが当の金天ボはいつもの笑みを浮かべるだけだった。
    「ハハッ!早くなった。」
    何がと聞かずとも当事者のクリムゾンにはわかっていた。胸に置かれる金天ボの手を払い、背を向ける。
    「練習すれば心拍数は簡単にコントロール出来るぜ。」
    その言葉に先の結果に不信感を抱くが終わった話を掘り返す気は起きなかった。それに運と駆け引き好きのギャンブラーがわざわざイカサマした風にも思えない。発しかけた疑念は結局腹に飲み込んでしまう。
    「くだらねぇこと言ってないで寝ろよ」
    「⋯そうしたいが今日はもう時間だ」
    金天ボはそう告げるとベッドから起き上がりさっさと身支度を整える。いつもどこへと消えるのかご丁寧にグローブまで嵌めて出会った時の装いになった。金天ボがカジノの世界にいるのは気まぐれだ。数カ月顔を出さないかと思えば数日で現れ何日も滞在することもある。今回は二週間振りに顔を合わせた。時間すら忘れそうになるこの異空間で金天ボの所在不明の期間が数字を思い出させる。
    「お前の鼓動がオレの秒針だな。時限爆弾の」
    「にしては毎回不発だな」
    「赤を切ってるからな。お前の色だ」
    「たまには別の色にしろ。オレはずっとお前が戻らないことに賭けてんだ」
    「ならオレは会いに来る方に賭けなきゃな」
    カラカラと屈託無く笑う金天ボはまた明日とでも言うように身軽に手を振って部屋から出て行く。あんな曖昧な存在と再会する保証など無いが、賭けを残したままならまともに成仏も出来ないだろう。クリムゾンはようやく静かになった自室で息をつく。布団に残る熱を追って体勢を変えると自然と睡魔が襲ってくる。次なる夢はあの男がいないことを望みながら目を瞑った。
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