湯たんぽ 烏天狗の足音が近づいてきたのを聞き、詠は咄嗟に布団を頭まで被った。
しばらくすると戸が静かに開く音がする。烏天狗は部屋の中に入り、規則正しく寝息を立てる詠の姿をじっと見つめていた。
足音がゆっくりと衣紋掛けの方へ向かう。羽織を脱ぎ、衣紋掛けにかけた後、烏天狗は布団のそばにある火鉢に向き直り、炭の様子を確かめ始める。火の揺らめく赤い光が薄暗い部屋をほのかに照らしていた。
「詠。」
名前を呼ぶ低い声が静寂を破る。しかし詠は目を閉じたまま、じっと黙り込んでいた。烏天狗は咎めることもなく、ただその様子を笑っていた。
絹のような髪が頬を撫で、耳元に温かい息がかかる。そして耳たぶに走る鋭い感触に、詠は思わず身を竦めた。関心を惹きたいとき、彼は決まって詠の耳たぶを噛む。
2400