雨、降りて 雨が降っている。
五月雨江はその音を聞いて真っ先に、自室に残してきた同室者のことを案じた。彼は元来から腹痛を起こしやすい体質であるが、雨天時には特に顕著なのだ。
「雲さんが、お腹を痛めているかもしれません」
「わかるのか」
「はい。このように強い雨が降っているときは、調子を崩しやすいそうなのです」
「そうか……」
つい先ほどまで五月雨と手合わせをしていた相手は、何かを思案するようにその碧い瞳を動かした。かつて肌身離さず被っていた布を脱いでから、彼の感情は瞳によく表れるのだと五月雨は知った。
「ここから広間へ行く途中の廊下に、冬物の寝具を保管している部屋がある。そこに薄手の毛布があるはずだから、一枚持っていけ。わからなければ近くの部屋の男士に聞くといい」
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