溽暑の熾 夏の暮。外気はまだ生温くじっとりと重さを運んでいる。町はずれの安アパートは都会の喧騒からは遠く、蝉たちが賑やかに生を謳歌していた。
西日が傾いてきたので畳の上に寝転がした深鈴を移動させ、扇風機の向きも調整した。
汗をかいているな。と首筋に伝う雫を眺め、一枚だけまとっていた肌着をめくりあげて脱がしていく。首まではつかえるものがないから素直に脱がせられたが頭を通そうとしてそこで目があった。
「なんだ。まだ足りないのか?」
挑発的な物言いをしてくるくせに、目はかつてのような輝きはなく暗く沈んでいる。けれど僕はそれでも見捨てたりはしない。
「そんなわけないだろ」
さっさと残りをはぎ取り視線をそらした。用意していた濡れタオルで深鈴の体を拭いていった。腹にも背にも傷痕が残っている。四肢はわずかに付け根を残しその先は失われていた。それでもまだ体だけは残っている。五体のほとんどを失ってなお欠けない何かがこの男を生かしていた。それを僕はこれ以上、少しもこぼしたくない一心で体をぬぐった。
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