隊長と副隊長(くそ、キリがない……こんなんじゃ一虎君の背中なんて守れねーよ……)
倒しても、倒しても、次から次に敵が俺の目の前を阻んでくる。
隊長である一虎君の背中を守るのは、副隊長である俺の役目だ。
(一虎君と背中は俺が守るって約束したのに……)
一虎君の側で背中を守るように敵を相手していたが、いつの間にかはぐれてしまった。
流れ落ちる鼻血を拭って目の前の相手の右頬を狙って思いきり拳を打ち込む。
一人倒したと思った束の間、不意を付かれ右から別の奴に体当りされ押し倒された。
体重をかけてのしかかられ、上から拳を振り上げられ続けるのを腕で顔を覆って庇う。
(くそ、邪魔すんじゃねーよ……!!)
拳を振り上げる相手の隙をついて下から殴って相手を吹き飛ばす。
顔を庇い続けた腕が痛む。
赤黒い痣が点々と出来ていた。
(どこだ……一虎君…………)
なんとか目の前の敵を全員地面に叩きのめし、東卍の隊員と敵の隊員同士が暴れ狂う抗争の渦の中を目を凝らして一虎君を探す。
リン、と鈴の音がどこからか聞こえる。
(いた………!!)
金メッシュが混じった黒髪を振り乱しながら、周囲の敵を一人で殴り倒している。
中にはそんな一虎君に怖気づいている者もいる。
(やっぱ強えーなあの人………)
普段は面倒くさいことを嫌い、のらりくらりと自分の機嫌次第で行動するし、すぐ俺に敦〜と抱きついて甘えた態度を取ってくるような人だが、いざという時になったら一虎君は人が変わったように一人で戦況を変える。
肆番隊としても、隊長である一虎君が活躍するのは誇らしい。
当の本人は、隊長としての意識としてではなくただムカついたからと言うが、その圧倒的な強さに惹かれ、部下である俺達は、隊長として一虎君を慕いその背中を追っかけ支えてきた。
『すんません、遅くなって!背中は俺に任してください一虎君!』
敵に囲まれた一虎君の背中を守るように盾になる。
『おせーよ敦。どっかでへばってんのかと思ったわ』
『隊長一人で戦わせてくたばってらんないっすよ…!こっちは任してください!』
俺の返事を聞き、一虎君がニヤリと広角を上げ、任せたぞと合図を送ってくる。
『よっしゃ、行くぞ敦ぃ!!』
お互いに目の前の敵に殴り掛かる。
敵を蹴散らしながら一虎君を横目で見ると、目を血走らせ、楽しそうに広角を上げながら敵の胸ぐらを掴んで殴り続けている。
一人がのさばったら、またもう一人捕まえて、また一人また一人と次から次に敵を倒していく。
(やっぱあんたはかっけーよ……隊長…)
何度も見てきた一虎君の狂気じみたギラギラとした顔に、ゾクゾクとする。
尊敬とも興奮とも怯えとも付かない複雑な感覚だ。
味方でさえ、そんな一虎君の顔に肝が冷える時もある。
だが、この人はただ衝動に任せて一人で突っ走るだけではなく、仲間のこともちゃんと大事にし、守れる人だ。
腹心として側で見てきたから、俺には分かる。
『敦ぃ!よそ見してんじゃねーぞ!』
一虎君に教えられ、背後から鉄パイプで襲い掛かる敵を身を翻して躱す。
ほらな。やっぱあんたは隊長の器だよ、一虎君。
あんたがそう思わなかったとしても俺達は皆そんなあんたが大好きだ。
そんな一虎君の一番側で、副隊長として背中を任せて戦わせて貰えることが俺の何よりの誇りだ。
どこの隊よりもうちの隊の隊長がかっこいい。
それは肆番隊皆、そう思っている。
普段のどこか目の離せないほっとけない危なげな雰囲気から一転し、こういう時の一虎君はギラギラと活気に満ち溢れて男が背中を付いて行きたくなる顔をしている。
俺もそんな一虎君の顔に惚れ込んだ内の一人だ。
地面に倒れ込み、一虎君と揉み合いになる敵を横から蹴飛ばし、今度は俺が一虎君を守る。
『大丈夫っすか?』
『あんがと』
差し出した俺の手を掴んで起き上がり、鬱陶しそうに髪をかき上げる。
『さっさと終わらせよーぜ、敦』
俺に笑いかけるその顔は、男らしく、めちゃくちゃかっこよく見えた─────
無事に東卍が勝利を収め、抗争場所の空き地から負傷者に肩を貸しながら東卍の隊員達が引き上げ始める。
『あー疲れたー……敦〜、おんぶー』
さっきまでのギラギラした顔を脱ぎ捨て、いつもどおり俺に甘えてくる一虎君を言われたとおりおんぶする。
『まじあちこち痛てーわ……あとで揉んでー、アッくん』
一虎君は甘えてくるときはアッくんと俺を呼んでくるから感情を読むのが分かりやすい。
『はいはい。俺も腕痛いんすけどね』
お互いに満身創痍だが、ここは隊長として一番に体を張って頑張ってくれた一虎君の望みどおり甘やかす。
俺の首に腕を巻きつけ後ろから抱きつき、子供のように安心しきって体を預けてくる一虎君を可愛く思う。
よく他の奴からは、一虎君のわがままとも取れる言動によく愛想尽かさないなと心配混じりに突っ込まれるが、これくらいなんてことない。
だって、この人は強くて脆いから。
猫のように、警戒心が強く。自分が気に入った人間じゃないと懐にさえ入れてもくれないが、一度気に入られ懐に入れてくれれば、あとは俺を撫でろと言わんばかりに求めてくる。
以前、一虎君から複雑な幼少期について聞かされたことがある。
それを聞いたときは、だからこの人は人を信じるのが怖いんだと俺の勝手な解釈だが納得した。
本人のつらさは本人にしか分からないから。
だけど、そんな一虎君がここまで俺を信頼して甘えてくれるのだ。
むしろ喜ばしいぐらいだ。
元々スキンシップが多く、距離感が近いから創設メンバーともよく肩を組んだりしているが、ここまでべったり甘えてくれるのは俺だけだから、ちょっとそこは自慢だったりもするんだけどな……
だから、誰に何を言われようが、ついつい望まれるまま甘やかしてしまう。
一虎君が尊敬するマイキー君に託された肆番隊という大事な隊。
それを一虎君は、誰にも何も言わないが、一虎君なりに大事にしてることは、側で見てれば分かる。
人付き合いが得意じゃない一虎君の足りない所を補うように、俺が皆の話を聞き纏める。
だが、一番は一虎君だ。
皆それを分かっている。
『俺も肩揉みますよ!』
『ジュース買ってきましょうか!』
だからこうして、肆番隊の隊員が一虎君を取り囲む。
『いらねーよ。てか暑苦しいからあっち行け。敦と二人にしろ』
俺と一虎君の仲を知っている隊員達がはーいといいがら素直に引き下がってくれる。
『ふぁぁ、ねみー……ちょっと寝かして敦……』
『しょうがないっすね……付いたら起こすから寝てていいっすよ』
相当疲れていたのだろう。
すぐに寝息が背中から聞こえてくる。
(お疲れ様、一虎君………)
俺の背中で安心したように眠る一虎君を起こさないようにゆっくりと歩いていくのだった。