無題マッシュから会うのをしばらく控えよう、と言われてからまだ間もないはずなのに、会うのを唯一の楽しみにしていたレインにとってそれはとても長く感じていた。
いつまで?
このまま会えなかったらどうしようか。
そんな果てもしない不安に駆られて、レインはスマホを握りしめる。会えない理由はわかっている。元はと言えば自分の気持ちをはっきりと言わなかったせいであり、関係のないマッシュを傷つけてしまったのは事実。自業自得だと自分を責めた。
ーーレインくんにとって、僕は何なのでしょうか?
頭の中で、マッシュの言葉が響く。
何一つ彼女に伝わらなかったのが、己の不器用さになによりも情けなかった。
『…嫌われたら…オレは…』
はあ、と深いため息を吐く。すると、握りしめていたスマホから着信音が鳴る。画面には【マッシュ・バーンデッド】の名前にレインは素早くタップした。
「マッシュ!!」
「…すまねえ、マッシュの代わりだ。」
電話の相手は、マッシュの運転手でもう1人の保護者であるブラッドからだった。
「……何だ…」
「あからさまにガッカリすなよ!?今いいか?」
「大丈夫だが、何故…」
「マッシュがしばらく入院することになった。」
ブラッドの一言に、レインは一瞬だけ時が止まった。
「は…入院…?マッシュに何があったんだ!!?」
「落ち着け。少し前から風邪を拗らせててだな。ちと悪化して今朝方病院に搬送されて、心筋炎を引き起こしてたらしく、幸い軽い炎症で大事には至らねえから、安心しろ。念の為の入院だ。んで、水曜日が被ってるから会えねぇからすまないとマッシュから伝言…」
あまりにも突然過ぎてついていけず、ブラッドの話が遠くに感じていた。
あんな健康優良の塊であるマッシュが入院するなんて。風邪…?もしかして風邪を引いた原因は間違いなくあの時の水を被った日だ、と会うのを控えようと言われた日から逆算して、レインは確信する。
「おい、聞いているかー?」
「…マッシュが入院している病院を教えてくれ。会いたいんだ。会わせて欲しいっ…」
「会いたい気持ちは分かるが…お前は今受験生だろ?」
「関係ねえ。風邪も、元はオレのせいなんだ…。この前のマッシュが絡まれて水をかけられた時の…非礼を詫びたいんだっ…だからお願いします、マッシュに会わせてください。」
レインのてこでも動かない強い意思に、ブラッドが電話越しにため息を吐くが分かる。呆れながらも、ブラッドは話す。
「…仕方ねえな。マーチェット総合病院の302室だ。面会は18時までだ。」
「分かりました。ありがとうございます…今から向かいます。」
レインはスクバを掴んで急いで教室から飛び出した。マッシュに会いたい一心で、早く早くとマッシュがいる病院へと向かった。
「調子はどうだ、マッシュ?」
「朝よりはだいぶ楽になった。」
「そうか、良かった。そいや、じいさんは?」
「僕の飲み物を買いに、売店に行ってる。…喉が渇いちゃって…」
「なるほどな。…マッシュ、お前が入院しているのをあいつに伝えたらな、今向かっているところだそうだ。」
「えっ…レインくん、来るの?」
「お前にどうしても会いたいってな。無理そうなら、断る事もできるが…」
「……ううん、大丈夫。」