えすぱーにゃにさすけを生やした尻切れトンボ三次創作俺様の主が一体何をしたというのだろう。
この戦国の世で武士として生きる以上人を斬らねば生きてはいけない。故に殺した足軽や武士の家族、敵国の民草に恨まれることはままあることだろう。それならば、怨霊に取り憑かれた、仇討ちで殺された、戦場で力及ばず討ち取られた。その方がどれほどよかったか。
何より、佐助の主自身がそれを望んでいた。
真田幸村が生きる場所は戦場であり、また死ぬ場所も戦場である。
それを誰もが疑わなかった。勿論ただで主を討ち取らせる気は毛頭ない。幸村は佐助の全てだ。いつか死ぬと分かっていても、死なせたくはない。命に替えても守るつもりだった。それがどうだ。
甲斐の若虎、紅蓮の鬼。そのどれもが見る影もなく。
忍びは夢など見ないというのに、自分は今ひどい悪夢でも見ているのだろうか。
広い部屋の片隅で小さく蹲り、小刀で腹を切ろうとするその手を掴む。
「さ…すけ…?」
のろのろと顔を上げたその人は、佐助を目に映すとやがて小さく掠れた声で佐助の名を呟いた。
普段からこちらがうるさいと文句を言ってもついぞ直ることのなかったあの大きな声が今は恋しかった。そんな小さな声も出せるなんて、こんな時に知りたくはなかったのに。
忍びの耳でやっと聞き取れるほどの幸村の小さな声に、佐助は無性に泣きたくなった。
「…うん、遅くなってごめんね旦那。甲斐に帰ろう」
いつも通りを装って佐助が言うと、幸村の顔にはみるみるうちに苦痛の色が浮かんだ。
「さすけ…さすけ!」
まるでその単語しか知らないかのように幸村は繰り返し悲痛な声で佐助の名を呼ぶ。佐助は幸村の手を離すとそっとその震える肩を抱き寄せた。
己の主はこんなにも弱々しい生き物ではなかったはずだ。
幸村はいつだって生に満ち溢れていた。生きるか死ぬかの戦場でさえそれは変わらず、その身に宿る炎で全てを焼き尽くし屍の山を作り上げる。非情なその姿は正しく鬼のようであり、紅蓮の鬼とはよく言ったものだと今でも思う。かと思えば、佐助に何かと団子を強請る子供じみた一面は元服した後も消えることなくあり続け、鬼のような、はたまた手のかかる子供のような、そんな不思議な御人だったのだ。
だがきっと、今の幸村であれば初陣の新兵にだって殺せる。佐助はそう思った。
元々体格がいい方ではなかったが、ここまで痩せ細ってはいなかった。しばらくの間食事もまともに取れていないことは容易に察せられる。縋り付くように佐助の背に回された腕には無数の真新しい刀傷があり、腹を切ろうとしていた姿から見て、これはおそらく自分で切ったものだろう。太陽の下にいるのが誰よりも似合う、よく笑い、よく食べ、よく吠え、よく動き回る。そんな御人だったのに。
生きて再会したかった。その言葉に嘘はない。事実佐助は川中島にて討ち取られた謙信と信玄の遺体を目にしてからずっと、寝る間も惜しんで幸村のことを探していたのだ。
信玄の側を離れるわけがない幸村の遺体がその場になかった。ならばきっと。
もう既に死んでいる可能性も十分にあったが、必ずどこかで生きていると信じて日ノ本を駆けた。
だが弱り切った主を前にして、佐助の頭には考えたくもなかったことばかりが浮かび上がる。
川中島でお館様と共に死んでいた方が…と。
こんな城に閉じ込められ抜け殻のように生きているだけならば、幸村はきっと戦場での死を望んだはずだ。それが叶わないならばせめて追い腹を切るであろうと。
ああ、でもそれを今止めたのは俺かと佐助はどこか自嘲気味に笑った。
死んだ方がましだ。幸村もそう思っているかもしれない。だが既に佐助の頭に幸村を思いのまま死なせてやる選択肢はない。
一騎当千の将の姿は見る影もないが、幸村は確かに生きていたのだ。弱々しくも、生きていた。ならば、佐助はそれを全力で守り、生かす。決して死なせはしない。
至極単純な話だ。どんな形であれ佐助は幸村が死ぬところを見たくない。それだけだった。
縋り付いてくる幸村をあやしながら佐助は幸村を逃す方法を考えていた。
天井裏にいた監視か護衛かも分からぬ忍びは既に排除した。他にこの部屋の周囲に人の影はない。外には才蔵を含めた十勇士が各所で待機しているため、幸村をこの城から逃すこと自体は簡単だ。だが問題はその後だ。
幸村の不在に気づいたあのいけすかない竜が、幸村を追ってこないはずがない。
信玄と幸村を同時に失った甲斐武田は今混迷を極めている。仮にこのまま幸村を無事に甲斐まで逃がせたとして、伊達との戦に持ち込まれたら勝ち目はない。…ならば、残された道は一つだ。可能性が低くとも、佐助はこれが最善だとしか思えなかった。
刺し違えてでも伊達政宗を殺す。
相手は一人で謙信と信玄を討ち取り、幸村をここまで連れてきた相手だ。おそらく、いや確実に己よりも強い。だがもとよりこちらは忍びだ。殺すことを生業にしている。本来であれば主の命なく敵国の国主を暗殺するなど言語道断だが、こちらは既に大将を討ち取られているのだ。今後の戦の火種だなんだはもう気にしていられない。国主が死んで国自体が痩せ細るに賭けるしかない。
手段を問わなければ、こちらにも勝機はある。そして今の武田で伊達政宗を相手取れる可能性があるのは佐助だけだ。
佐助は幸村の両肩に手を置き引き離すと、心からの優しい笑みを浮かべた。
結果がどうであれ佐助は無事では済まないだろう。それが分かっているから、自然と笑みが浮かんできたのだ。
これが最期。
なんだか不思議な気分だった。今までいつ死んだって構わないと思っていたのに、いざ死地に向かうとなったら途端に命が惜しくなったのだ。何度戦場に赴こうとそんなことは思ったことがなかったのに。
だって、幸村がこんな姿になってしまっていたから。今までどんなに辛かろうと自分の足で立っていた幸村が、佐助に縋り付いてくるから。ああ全く、死ぬ時は幸村の馬鹿みたいな笑顔を冥土の土産にしてやるつもりだったのに、とんだ大誤算だ。最期に見る旦那がこんなにも変わり果てた姿だなんて、俺様あんたのこれからが心配でならないよ。
佐助には幸村に他の家臣に比べて多くの心を砕いてもらっていた自覚があった。これは決して自惚れではない。だからこそ、信玄と佐助の両方を失った幸村がこれから生きていけるのか、不安でならなかった。命も惜しくなる。それでも幸村を生かすために必要であるなら、佐助は喜んでこの命を差し出すのだ。幸村の命と佐助の命、比べるまでもない。
「時間がない。いいか旦那、外で十勇士が待機してる。このまま俺様が才蔵のところまで連れて行くから、才蔵の指示に従って甲斐まで逃げろ」
「そんなこと…政宗殿から逃げられるわけがないだろう…」
「なーに言ってんの、いつまでもここにいるわけにもいかないでしょ?今しかないんだよ」
幸村の目が不安に揺れた。無理もない、きっと幸村は信玄が殺されるのを目の前で見ている。独眼竜の趣味の悪さに吐き気がした。
「佐助は…?佐助はどうするつもりなのだ」
その問いに答えることなく笑みを深めると、佐助は素早く幸村の体を抱き上げ走り出した。
「佐助!」
「はいはい、見つかると面倒だから静かにね。俺様は旦那がいなくなったのがバレた時の時間稼ぎで少しここに残るけど、すぐ後を追うよ」
◇飽きた◇
逃げてる最中幸村が「俺にはもう政宗殿しかいないのだ…!」って泣くからそこで初めて伊達が幸村を攫ってきた理由を察してブチ切れる佐助
伊達のこと殺そうとするけど伊達に「アンタ、あいつのこと抱いたことあるか?案外良い声で啼くぜ(大嘘)」みたいなこと言われて動揺した隙に捕まる→幸村連れ戻される→幸村の前で首落とされるバッドエンドを書こうとしてそこまでいきませんでした🙄