きっかけ 自分がオメガであることを世一に気付かされた日から、数ヶ月が経つ。今までいろいろあって、少し前に世一と番になって、こんな幸せな日々を過ごしてもいいんだろうかと一人で不安に思っていたある日。
世一が事故に遭ったという話を聞いた。幸い命に別状はなく、打ち身や擦り傷は多数出来たが骨折はしていない、という話を聞いて内心ホッとしつつ病室を訪れてみると、頭に白い包帯を巻いた世一が俺に気付いて不思議そうに首を傾げた。
「えっ外人!?は、ハロー……?貴方も俺の知り合いですか?」
「……は?」
初対面の時ですらしなかった不思議な反応に、冗談にしては笑えないぞと口を開こうとしたタイミングで担当医師から話しかけられた。英語で話をしようとした医師にイヤホンで翻訳されるから日本語で構わないと伝え、病室を出て世一の状態を聞いた。頭を強く打ったようだけれど傷は大したことはない、ただそのせいで記憶喪失になってしまったようで、自分の名前すらも思い出せていないらしい。事故の原因は轢かれそうになっていた子供を助けるために道路へ飛び出したと聞いて、心底呆れた。誰かを助けるためなら自分を犠牲にする精神、到底理解出来ないけれど世一はそういう人間なんだろう。とにかく記憶を戻してやらなければ、と病室のベッドに座っている世一の傍に戻り、片耳からイヤホンを外して無理矢理嵌めさせた。
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