皇宗SS/怖がりで小さな生き物 今日の仕入れはいつもよりスムーズに終わった。ものもかなり質の良いものが手に入り、新鮮な魚や肉を早いところ冷蔵庫にしまいたかったので、いつもの出勤時間まではかなり間があったがそのままウィズダムに向かうことにした。
裏口から店に入ると、バックヤードの灯りはすでに点いていて、宗雲がソファーで作業をしている後ろ姿が見えた。いやに早い、と意外に思いつつ、早く来てよかった、とも思う。黙って近づいていくさなか、視界に入った宗雲の手は、いつもであればパソコンや書類を忙しく繰っているのに、今は仕事をしているわけではなさそうだった。二つの掌は伏せられたノートパソコンの蓋に置かれて、皇紀でなければわからない程度に小さく震えている。皇紀は訝しみながら、自分に気づく様子のない彼の横顔を覗き込んだ。緑の瞳はノートパソコンの向こう、何もない机上をじっと見つめ、色の希薄な唇はぐっと噛み締められている。皇紀は訝しむよりは胸のざわめきに背を押されるように、彼のすぐ隣までずかずかと近づいた。
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