嫉妬その日、北信介は、おにぎり宮の2階、宮治の居室の台所で絶望していた。
つい先日、祖母に分けてもらった上等のクリームクレンザーで、この部屋にあるいくつかの鍋の、ちょうど半分をピカピカに磨き上げた後のことだった。
「残りはまた今度」
そう言って帰宅し、そして今日がその「また今度」だった。
日々使い込まれ、焦げ付いて茶色くなった鍋を綺麗に磨き上げる作業は、この上なく心地よい時間だった。今日という日を楽しみにしていたと言っても過言ではない。
ところが。
「なあ、治。鍋、傷だらけやんか」
不器用にところどころまだらに残った汚れと擦り傷で、鍋は見るも無惨な姿になっていた。
「………はい。すんません」
背後から、この部屋の主のしょぼくれた声が響く。高身長なはずの彼にしてはかなり下の位置からだった。たぶん自主的に正座をしているのだろう。
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