蝶葬と剣契その男が最初に目の前に現れたのは右議政の護衛武士を切り捨て、S社からの逃亡を始めたあの夜からだった。
「そんな翼でお前は飛んで行けるのか……?」
「……、」
声が聞こえた瞬間に素早く剣を抜き、声の聞こえた方へ切先を向けると、黒い背広を着た男が立っていた。
男は煙草を口から離して溜め息を吐くように煙を吐き出した。
レンズ越しに、心底哀れむような目を向けて。
煙草の匂いが今になって漂って来た事に気付き、剣を握る力を強めた。
「お前だけじゃない。お前の親友達の翼も血が染み込んでる。そんな翼でどうやって羽ばたくつもりなんだ?」
「……何を言っているのか理解出来ない。追手なら何故襲って来ない?」
「お前の翼を捥ごうって訳じゃないさ。ただ……気になっただけ。」
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