パラボラ逃避行「だいじょうぶですって。なにがおこっても、俺がどうにかしてあげますから」
例えば死に直面するような事態に陥ったとき、自分の正体を明かしてまでこの人を助けられるのかと問われれば、想像の中ですら肯定と否定のどちらも断言できないというのに、甘言がすらすらと口をついて出た。
肌寒くなってきたからジャケットだけひっつかんで部屋を出る。リビングをすり抜けようとすれば「朝食は……」と雪風さんに言われたけど、「オレと練牙さんは有休なんで」なんて理由になってない返事を投げて寮を出た。
たまにオレの名前を呼ぶかすれた声を無視し、改札をくぐって四駅。新幹線が停まる以外役目のない駅に降り立つと、電光掲示板の一番上に表示されている便の特急券と乗車券を買った。売店には寄らず滑り込んで来た車両に足を踏み入れたものの、目に入る禁煙のマークに口が寂しくなり、やっぱりコーヒーくらいは買えばよかったなと少し後悔した。
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