🐕️📷️ あの人にこんな感情を抱いたことこそが、端から間違いだった。
「それに気づいたのがついこの間っていうのが、救いようがねえですねー」
独り言ほど虚しいものはない。部室で1人呟いた言葉は誰にも気付かれずに消えゆくのみ。
まだ部活が始まるまで時間があったからアルバムの整理を始めたはいいものの、途中から明らかに1人だけ写真の量が増えている事実にもう笑ってしまった。
目を細めて優雅に笑う彼を、ひどく愛おしく感じてしまう。手足の先まで洗練されたその姿は、どうしたって己の目を奪っていく。
これは見開き1ページまるっと彼の写真で埋められているページもあるかもしれない。
流石にまずいかと作業を一度中断し、前のページを捲っていく。
これはリルハピとの合同練習のときの放課後、皆で寄り道したときの写真。やっぱりあの人身内に甘すぎる。
こっちは昼休みの教室で3人集まって真剣にスマホと対峙してたのが面白かったから撮ったやつ。あの人にスマホ横持ちは似合わなすぎる。
それでこっちは、と当初の目的も忘れ思い出に浸ってしまっていた。次のページを捲ろうとして、ふと気付く。
「…俺はこんな顔見たことねーですよ」
分かってはいた事実に、心が沈む。
「おや、アルバムの整理ですか」
「うひゃあぁ! びっくりしたっ、いきなり声掛けるのやめてもらえます!?」
思考に集中していたために全く気付かなかったが、これは流石にわざと驚かせたんだろう。「すみません」と口では言うものの、くすくすと可笑しそうに笑みをもらしている。
「晴さんわざとでしょ!」
「そんなことはありませんよ。ただ全く気付いていないものですから、近くで声を掛けなくてはと思いまして」
そう、ただ声を掛けられただけではここまで驚くこともない。この人は自身の耳元であえて囁くように言葉を発したのだ。
驚いたことに対しての怒りをぶつけてはいるものの、別の意味で心臓が脈打っていることがばれていなければ良いが。
「とろこで光緒くん」
「何ですかー」
「そのアルバム、やけに私の写真が多いように見受けられますね」
…今自分の心臓はちゃんと動いているだろうか。一番指摘されたくない人に言われてしまってはどうしようもない。普段ならつらつらと言い訳を重ねられるだろうが、如何せん今は頭が真っ白だ。
黙り込んでしまった自分に不思議に思ったのか知らないが、「ふむ」と一言発したかと思えば、アルバムを彩る自身の姿を一つ撫でる。
「自意識過剰、かと思いましたが」
「…え?」
「ふふ。私はあなたにシャッターを切っていただけることは、とても幸せなことだと思います」
何が言いたいのか本質を掴めないままに、彼は言葉を続けた。
「そして、そのレンズの先にいるのがずっと私であれば良いのに、とも」
「えと、それって、」
「光緒くん、顔が真っ赤ですよ」
そりゃあ赤くもなりますよ!