生前捏造、明治の東京で再会する永斎(CP未満、CP要素薄め) 気づいたのは若草色の葉と共に桃の花が咲く三月。
梅はもう散っていた。
桜が咲くにはまだ早い。
──新撰組はやがて物語になるだろう
「斎藤!」
男が大声で呼び掛けている。
交通の要所である板橋は人の往来が盛んで、声はすぐ雑踏に掻き消された。それでも、誰かは懸命に名を呼び続けている。有り触れた名前であるから、何人かが足を止め振り返っては、自分でないことを確認してまた歩き出すのが見えた。
その間も「おい!」とか「無視するな!」と言いながら名前を呼びつつ追いかけているらしく、声は徐々に近寄って来ている。誰かは知らぬが"男の知り合いの斎藤"もいい加減に返事のひとつくらいしてやればいいのに。
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