とある特異点にレイシフトした永×斎 斎藤一は黒いコートの裾が汚れることも構わず、黒灰色をした床へ片膝を着いた。
今まで足元から聞こえた寄せては返す波音が、もうすぐそこまで差し迫っていると錯覚するほど傍から聞こえてくる。そのことに落ち着かない心地にはさせられたが、壁や床が音を反響しているだけであることもわかっていたため、斎藤はわざわざ川の方を確かめはしなかった。
指ぬきグローブに包んだ手を床へ当てる。
剥き出しの指が、見た目よりも滑らかな手触りを感じ取る。布に覆われた掌も、水辺の岩らしい冷たい温度を探り当てていた。
「調子、悪いかな?」
背後から声が掛かる。
共にレイシフトしたマスターのものだった。
大きな声ではなかったが、マスターの声もまた、壁にぶつかり辺りに反響する。
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