僕らのオズマ計画 的な…「この宇宙の何処かに、宇宙人は存在する!」
僕より1つ上の先輩の口癖だ。
天才で、テストの順位はいつも上位。
ルックスも良く、その顔に男女共々一度は惚れ込んだ事がある。
ただ、一つ残念なのが…先輩は異常な宇宙人オタクなのだ。
子どものころ、1度だけUFOを見たことがあることをきっかけに、先輩は宇宙人の存在を力強く信じている。
人々は口々にこう言うんだ。
「あの人は宇宙人さえなければ完璧なのにね」って。
僕はそんな先輩の後輩。
少し後に入ってきた年下にすぎない。
それでも、それでもだ。
毎晩毎晩、真夜中に容赦なく電話をかけてきて。
「やあ、後輩くん!今日は星空がすごく綺麗なんだ!今日こそ、宇宙人の痕跡を辿ろうと思う!」
何時にかかってくると思う?夜中の2時だよ。
寝ているところを叩き起こされて、眠い声を出しながら僕だって反論する。
「明日は学校なんですから寝させてください…」
「何を言うんだ、若い今だからこそ夜更かしをして大発見を…」
「すみません、寝ますね」
…こんな変人となんでいるかって?
僕も宇宙が好きだったからさ。
小さいころから、宇宙の広さや星の美しさ、星座の逸話に惚れ込んだ僕は先輩とは違う道を歩んでここまでやってきた。
学校に入って、真っ先に目に飛び込んだのも「宇宙部 部員募集中!」という張り紙。
……そこにあった宇宙人のイラストをちゃんと見ればよかったのにね。
部活見学をしに行った時は、それはもうこの世のものとは思えないほど喜ばれて。
腕をつないでブンブンと振り回されて。
でも、先輩の容姿の良さに引っかかってしまったのも…少しあるのかもしれない。
「先輩。宇宙人なんていませんって」
「何を言うんだ。後輩くん!私たちだって宇宙人の一人だぞ!」
そういう先輩は、どんな時でも一番キラキラしていた。
あるときは「宇宙人との交信」とか言って。
朝の4時まで突き合わされたり…。
宇宙人がいるバーとか言って…未成年なのにバーに行こうとしたりして。
僕はずっと、引っ掻き回されていたし。
いつの間にか、「変人先輩の助手」として学校では認知されていた。
先輩は、すごい人だ。
再三いうけど、天才なんだ。
天才だからこそ、後に付いている凡人の僕は…。
少し肩身が狭くなった。
「先輩と居るのに、成績が良くならないね」
「最近学校で眠っていることが多いな」
同級生や先生からも、そんなことを言われて。
僕の人生は、先輩にぐちゃぐちゃにされたといっても過言ではない。
だから、だから僕は言ってしまった。
あの日、部室で先輩が楽しそうに「今日は宇宙人との交流をするんだ。君もおいでよ」といった日に、僕は。
「いい加減にしてください!僕は宇宙が好きなんです。
宇宙人が好きなわけじゃないんです!
振り回さないでください!
先輩も現実を見てください、宇宙人なんて、居やしないんです!!」
怒りに任せた言葉だった。
先輩の顔も見る事無く、乱暴にバッグを掴んで、出て行ってしまった。
これで先輩も、少しはおとなしくなると思った。
僕も平和な学園生活が送れると思った。
思っていたんだ。
先輩が行方不明になるまでは。
先輩があの日、行こうとしてた大きな湖があった。
そこは、夜になると水面が波も立てず鏡面になる。
水面に、星空が現れるということで有名な湖だった。
深夜に届いたメッセージアプリで、先輩はこういったんだ。
「宇宙人に会いに行く。君も来てくれないか」
学校では、先輩について聞かれたが、僕は何も知らなかったし。
あの湖では先輩の望遠鏡やリュックが見つかって。
誤って湖に落ちたんじゃないかと言われて大捜索が行われたけど。
先輩は見つからなかった。
1か月、2か月が過ぎ、3ヶ月が経った頃。
先輩の捜索は、実質打ち切られていた。
死体のない葬儀が行われ、僕は誰もいない棺桶に花を置いた。
あれほどうるさかった日常が、急に静かになったもんで。
貴方の声が、どうしても欲しかった。
先輩は、宇宙人に会ったんだ。
僕は、次第にそう思うようになった。
先輩は、宇宙人と宇宙にいるんだ。
なら、宇宙人に返してもらえばいい。
…先輩。
僕は、片っ端から宇宙人と会う方法を試した。
毎日。毎日。
こっそり家を抜け出して。
あれもこれも、全部試した。
試した。
試したんだ。
先輩がいなくなる前に言った言葉を、僕はふと思い出していた。
「オズマ計画、って知ってる?」
「何ですか、それは」
「宇宙に知的生命体がいないか調査するためのプロジェクトなんだ。
周波数を合わせて、彼らと交信をする。宇宙人が好きそうな波長を選んでね」
…きっと、僕が行っているのは、たった一人の先輩を探すための「オズマ計画」なのだろう。
それは、途方もない時間の中で。
実現されるかもわからない。
人生をかけた、計画になる。