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    もちづき

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    もちづき

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    蜂楽と凛がデートするだけ

    凛蜂 ひまわりが満開に咲き誇っていた。
     まあ、ひまわり畑にきたのだから、当たり前のことではあるのだけれども。
     空から降り注ぐ白い日差しに、たまらず手のひらで日除けをした。対して目の前の男は帽子をかぶっているから平気なのか、ただただ楽しそうに空を見上げるひまわりの群生を眺めていた。
     どうやらひまわりの迷路もあるらしく、それに興味を持ったのか行こう行こうと手を引かれた。正直好みに纏わりつくねっとりとした暑さと暴力的なまでに派手派手しい色彩にうんざりして今すぐにでも家に帰りたいと願っていたのだが、こいつは特に気にならないらしい。頭がめでたいと暑さも感じなくなるのだろうか。であれば今すぐにでもめでたくなりたいものだ。そう思ってしまうくらいにこの暑さは自身の気力も体力も奪って行った。
     迷路は盛況のようで、入り口前にはそれなりに列ができていた。これならば諦めて帰るかと思いきや、そうでもないらしく俺の手を握りしめたまま列の最後尾に並んだ。繋がれた手からじんわりと汗が滲んでいって、二人の汗が混ざり合っていく。正直に言って心底不快だった。
    「おい」
    「ん?」
    「手離せ」
    「離したら凛ちゃんどっかいっちゃうじゃん」
    「いかねーよ」
     そう言えば蜂楽はこちらの顔をじっと見つめて、それから手を離した。本気でこのまま帰りたい気持ちで溢れかえっていたけれど、そうしたらこいつは手を握るどころか羽交締めにしてきそうだったので大人しくその場に残ることにした。炎天下の中べったりくっつかれるのは誰だって嫌だろう。それも平常の人間よりも体温が高い、同性の男だ。考えるだけでもむさ苦しくて気持ちが悪い。
     列は思ったよりも早く進んでいく。いつのまにか目の前に並んでいるのは二組になっていた。回転率は良いけれど、それ以上に並ぶ人が多いのだろう。それだけ人気だということだ。こんな猛暑の日に余計に暑くなりそうな色彩の中に飛び込んでいくだなんて、全く訳がわからない。そう思っていたら、不意に半袖の袖口を軽く引っ張られた。
    「ねえ、ねえ凛ちゃん」
    「なんだよ」
    「中に入ったらさ、二手に別れない?ゴール何個かあるらしいし、どっちが早く出られるか競争しようよ」
    「ゴールが複数個あるならどうやって勝敗決めんだよ」
    「えーっとね、ゴールしたらメッセージ送るってのでどう?それならわかりやすいでしょ」
    「…………はぁ」
     ため息を承諾と受け取ったのか、蜂楽は「やったぁ」なんて言って隣で楽しそうにはしゃいでいる。こちらとしてはよくこの環境下ではしゃげるなぁと、本当に歳上なのか疑っていただけなのだけれど。
     よくやっと俺たちが先頭になった。先ほどからうっすら聞こえていた説明をまた聞き流して、それからひまわりの群生に足を踏み入れた。
     四方八方を黄色と緑で囲まれた感想を簡単に言えば、目がチカチカして痛みすら感じる。一刻も早くこの場から逃げ出したい。ただそれだけだった。
     二人並んで進んでいくと、二又に分かれる道があった。
    「じゃあここで別れよっか。俺こっち行くね」
     蜂楽が右手を指差して、こちらに背を向けて足を踏み出す。その瞬間、ほんの一瞬だけ、なんだかひまわりが彼を飲み込んでどこかに連れて行ってしまうような感覚がして、それが妙に恐ろしく思えてむき出しの手首を握って引き寄せた。お互いに汗ばんでいたから、ぬるっとした感触がして少しばかり手のひらが滑った。
     だけれども手のひらから感じる気持ち悪さよりも、得体の知れない恐ろしさが急りになって息が上がる。細かく息を吸っては吐いている俺に反して、蜂楽は驚いたように目を丸くしてこちらを見上げていた。
    「凛ちゃん?」
     ぱちくり、ぱちくりと丸い黄色はが幾度かまばたに隠れて、それからその下にある薄い唇が三日月型に歪んでいった。
    「どったの凛ちゃん。寂しくなっちゃった?」
     ニヤニヤと楽しげにこちらを見上げてくる丸い黄色に、思わず舌打ちが漏れる。我に帰った頭が、何をやっているのかと己に呆れ返って怒りすら覚えてくる。
     腹に激情を抱える俺に対して、目の前の男はケラケラと楽しそうに、ひまわりよりも明るい笑顔で俺の手を取った。
    「それじゃあ、一緒に行こ」
     そう言うとこちらの返事も待たずに歩き出す。
     相変わらず空からは刺すような日差しが燦々と降り注いでいて、ひまわりの壁がその日差しを照り返すようでとても暑苦しい。立っているだけでも汗がじんわりと滲んできて、着ているシャツは肌に張り付いて気持ちが悪い。
     だけれども、俺の手を握るその手のひらに対しては、今は何故だか気持ち悪いと言う感情が湧いてくることもなく、どことなく安堵するような気持ちでいた。
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