夢魔 自分の荒い呼吸音でゆっくりと目を開く。酷く暑い。身体が寝汗で濡れているのを自覚するものの、やたらと生々しい夢の余韻が引かず手を動かすことができない。
眠りに落ちる前、割と涼しかった気温は既に熱帯夜と呼べるそれになっていて、これがあの夢の原因だと悟った。寝苦しい時にアイツの夢を見るのは昔からだが、最近じゃその内容も変わってきている。それに心底呆れ果てながらも、夢の中でまで求められることに不思議と悪い気はしなくて。
突然覚醒したせいか、眠りに置き去りの頭が夢と現実の境界をぼかす。そのせいでまだすぐそこにアイツがいるような気がして、夢の中でかけられた声と、身体を嬲られる感触が目が覚めた今も脳の中で反芻されていて、寝起きだと言うのに心拍数が上がる。
微睡んだ意識と卑猥な夢の残り香で、ぐずぐずに蕩けた頭が判断を拒む。額に貼り付く髪の感触を感じながら、冷房を入れた方がいいとぼんやり思うものの、俺の手はエアコンのリモコンではなく自分の身体に触れた。
濡れそぼった素肌に手を這わせると、それだけでビクビクと身体が跳ねる。普段自分で触るのとは比べ物にならないほどの快感に、だらしなく開いた口から小さく声が漏れた。
まだ脳が興奮してるなだとか、リアルな夢のせいで身体がバグってんなだとかを考える程度の覚醒はしているのに、肝心の理性が上手く立ち上がらない。全てが明晰夢のようにどこか他人事だった。
夢での颯太の手つきを思い返しながら、自分の胸に触れる。現実のアイツより若干乱暴だったな。呆然と思いつつ、突起を強く摘むと、頭が甘く痺れるような刺激に腰が震えた。そのまま指の先で引っ掻いたり押し潰したりしていると、元々重怠かった下腹が一層重たくなる。
自分が熱い息を吐く度に、既に湿気った部屋の湿度が更に上がる気がして、熱く火照っていく体温と相まって首筋を汗が伝った。バグった頭はその刺激すら過剰に捉えて、思わず軽く身を捩る。
歯止めが効かない。理性の箍を失った片手が、今度は下腹部に伸びた。すっかり立ち上がり、先走りと汗で濡れたソレに触れる。何度か扱くがその程度の刺激では最早満足できなくて、先端と裏筋を指先で少し強く擦った。ぼやけた視界に火花が散ったように見えるのは、強い快感のせいか。でも、颯太が夢で触れた箇所はここじゃない。
夢の中でもありありと喚び起こされた、全身が打ち震えるようなあの刺激が欲しくて、思わず自分で後ろに触れる。アイツに触られるならまだしも、自発的にこっちで満足しようなんて、普段なら思わないだろう。全部あの夢のせいだ。
既にぬるついたそこに指を這わせて、先を埋める。違和感と微かな痛みを覚えるも、盛り切った脳がそれ以上の刺激を求めて俺の手を動かす。指先がある一点を掠めた時点で、待ち望んでいた強い快感に、身体がひとりでに反った。
熱に浮かされた身体が拾う快楽に酔いしれる。それでも夢の中で与えられたそれには程遠くて、指の腹でその箇所をぐりぐりと押し潰す。腰が一際大きく跳ねて、抑えの効かない鼻にかかった声が上がった。
流石に居候共にバレるのは不味い。なけなしの理性で唇を強く結んで、夢の中で俺を揺さぶるアイツから与えられた刺激を再現しようと、無我夢中で指を動かした。
嫌にリアルな夢の中で、颯太が打ち付ける腰の感触と、ヤツが甘ったるく俺を呼ぶ声を知覚した。まだ脳がそれらを鮮明に思い出せるうちに、あの蕩けるほどの快楽を再現しようと必死な自分の浅ましさから目を逸らして、自分の一番弱い箇所を虐め抜く。
空いた手で胸の突起を潰しながら、中の弱い箇所を擦る。強すぎる快感に、浮いた腰がカクカクと上下するのが朦朧とする視界に映った。いまだに微睡んで覚醒しきらない、情欲に浮かされ切った頭じゃそれに羞恥を覚える暇もなくて、ただただあの淫靡な夢の追想に溺れる。
何度も押し寄せる軽い絶頂の後で、背骨を迫り上がる一際強い衝動に、全身が強張った。頭の中でそれが弾けたかと思うと、勝手に背が反って声にならない声が漏れる。シーツを強く掴んで、快楽の逃げ場を探す。長い余韻で朦朧とする最中、またアイツが俺の名前を呼んだ気がした。
目を覚ます。部屋はすっかり日が差して明るくなっていて、更に上がった気温がじりじりと皮膚を焼いた。寝汗で濡れた身体が不快で、思わず顔を顰める。何だかやたら熱っぽい夢を見た気がする。
流石に冷房入れなきゃ死ぬな。やたらめったらに重い身体を起こすと、シャツは捲れ上がっていて、ズボンはズリ下がっている。多少の間をおいて、寝苦しさに途中覚醒した自分が何をしでかしたのかを思い出して、その時は微塵も感じなかった羞恥が、堰を切ったように込み上げてきた。
不意に枕元のスマホが短く震えた。ホーム画面に現れた通知には、出来れば今は見たくなかった名前が表示されていて、クソ暑い気温に温められた顔が更に熱くなる。
…こんなの一生アイツに話せねーな…。敢えて通知をスルーして、ベッドから起き上がる。汗を吸った衣服の感触が、嫌でもまたあの夢を思い出させた。