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    ralirule333

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    ralirule333

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    @TRPG_TL ミカくんとカナ

    「あー、お腹減ったな〜。カナ、コンビニで何か買ってこーぜ」
     インクをぶちまけたような、鮮やかな夕日が空を染めている。
     それはあの日観覧車で見た光景とリンクして、背筋が少し寒くなる。
    「おーい、カナ? カナちゃーんやーい、どーした?」
     ばんばんと背中を叩く幼馴染。
     こう言う時は一等鋭くて困る。隠し事をしようとしても、気づいたら「どーした?」と顔を覗き込まれるのだ。俺には海外にいくこともなにも察知させてくれないほどの即断即決男だというのに。
    「しょうがないなー、カナは。チキン奢ってやるから、元気だせ、な?」
    「いや、腹が減ってる訳じゃなくて」
    「腹が減ってるから、落ち込むことだってあるだろ。腹が減っては〜って言うじゃん」
    「まあ……それはそうだが……」
     コンビニの方へ歩き出した幼馴染の腕を引く。歩みを止めてくれた幼馴染はやっぱり優しい奴だな、と思う。
    「どーしたよ。なんか変だぞ? 教授にど叱られた?」
    「……されてない。そうじゃなくて、……なんというか、お前が」
    「俺が?」
    「…………また、どうにかなってしまうんじゃないかと思って」
    「……どうしてそんなこと考えるかねぇ、お前は」
     めちゃくちゃマイナス思考じゃん、と茶化すように、でもどこか茶化しきれない声でミカは言った。俺の視線の先が夕日だったからかもしれない。それほどまでに、今日の夕日は目に痛い。
    「ん〜〜〜、いい歳した野郎同士で? やることでもないと思いますが? ハグでもしてやろうか?」
    「……いいのか?」
    「おっと、これは本気だな? も〜〜、困った幼馴染なんだから。お前も大概俺のこと大好きね」
     足を止めたミカがほれほれ、と俺の体に腕を回した。おそるおそる俺も腕を回し返す。一度ぎゅっと力をこめられる。くっついたところから鼓動が伝わる。
     ミカは生きている。
     俺も生きている。
     二人で、この世界に生きている。
     どくん、どくん、と鼓動が俺の頭から足先まで伝わって、ようやく息をはけた。「だいじょーぶだって」と幼馴染が俺の背中を叩く。
    「……ありがとな、ミカ」
    「お安い御用よ。うんうん、顔色もよくなったな」
    「ちゃんとわかったから、大丈夫だ」
    「ふぅん、よくわかんねーけど、ならいっか。コンビニ行こうぜ」
    「チキンおごる」
    「だーからそういうのはいいって」
     赤い夕日が俺たちを照らす。
     並んだふたつの影。
     俺たちに釣られて動くそれにひどく安心したのを、俺はミカには言わなかった。
     ——誰かを犠牲にした世界で、俺たちは今日も生きている。
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