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    Jinseifuseikai

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    アニメパロあいかの「先輩」との重シーンです
    これが結末ではない

    公園のブランコは、冬の冷気を吸い取って冷たい温度でそこに居座り、無邪気な姿は見る影もなかった。
    「あいかちゃん、学校ではどんな絵を描いてるの?」
    おずおずと尋ねる先輩に、私も渋々といった感じで作品の写真を見せる。デッサン、個人制作、高美展の制作……。それぞれに「かわいい〜」だとか「うまいなぁ」だとか感想を漏らしつつ、10点ほど見せたところで先輩は
    「へ〜すごい!見るからにでっかい絵じゃん!えーなに賞とったの!?すごいね!…………いやぁほんとに……」
    ──すごい。
    と、言った。
    スマホの画面を覗くために俯かれた面影から表情は読み取れなかったが、前髪の靡き方があまりにも哀愁に満ちていた。
    何か言わなくちゃ。私が、いや先輩が、このまま泣いてしまいそうだと、なんとなしに思った。
    「……先輩は、高校で何してるんですか?」
    「んー?私はバトミントン部に入ったよ。元々運動するのは結構好きだったし、始めてみると割と上達しちゃってさ〜うちのチーム、全国間際まで行ったんだよ!」
    顔をあげた先輩は意気揚々としていて少しほっとしたけれど、それが作り笑いなのは明白だった。
    「でも〜やっぱあいかちゃんには敵わないや。ずっと絵続けて、めっちゃ上手くなってて、一瞬誰だかわかんなかった」
    「そんなことないですよ、私より上手い人なんていっぱ」
    「ううん、あいかちゃんは上手いよ。」
    遮る声はあまりにも冷淡だった。表情は軽やかで飄々よしているのに、その声は私を黙らせた。
    激励や賛賞などではなかったと思う。叱責されていると表現してもいいだろう。責められているような感覚に戦慄した。
    「あ、もしよかったら今度遊びに行かない?私バイトしてたから後輩一人のご飯奢るくらいはお易い御用なんだぜ!」
    「あーそうですね、中学の時みたいに美術館とか個展とか……」
    「あーいや、そういうんじゃなくて、さ、」
    「?」
    「普通に原宿とか行こうよ。洋服選んだりとかさ」
    沈黙の回答を返してしまったのは、少し後悔している。
    変わってしまった先輩を再確認したことで一瞬のショックに陥ったとはいえ、機転の利いた返答を返すべきだっただろう。先輩からすれば空気を悪くしてしまったと思われてしまう。
    「あーもう暗くなっちゃうし、そろそろ帰ろっか、じゃ、またね!」
    私の産んだ沈黙が帰りを早くしたのか。
    日の短い冬は嫌いだ。同じ時刻でも、冬は日照りの短い分一緒にいられる時間も短い。
    先輩の影が消えてしまう。私を包み込んでいた大きな影が、消えていく。

    「先輩!」

    思わず、呼び止めてしまった。
    先輩は何の気なしに振り返ったけれど、私は目を合わせることはできなかった。
    「私は先輩の絵が好きでした!先輩と一緒に描いている時間が好きでした!こんなに楽しい時間があっていいものかとさえ思いました!先輩がいたから私は私の好きを見つけることができたんです!」
    言葉が湧いて出てくる、というと興奮しているようだが、今の私には先輩を離したくないその一心でしか無かった。
    「もう一度、もう一度描いてくれませんか……?誰のためでもない、先輩のためでもなく……私の、ために」
    言い淀んだ言葉は、ずっと、この3年間伝えたかった言葉は、呟きのように消え失せたかに思えた。私の耳にも届くかわかないほどに、涙と嗚咽で言葉は呑まれた。
    私は先輩と絵を描く時間が好きだったけれど、とどのつまり、それは先輩が絵を描く姿が好きだったに過ぎないと、先輩を失ってから気づいた。
    中学三年生の頃は部活にもあま出なくなり、それこそ美術部は変人の溜まり場のように変貌した。しかし別に先輩がいない美術部なんてどうでもよくて、危機的状況を立て直す気力なんんて生まれなかった。
    静寂が辺りを包んだ。冬は寒くて、静かだ。鳥の鳴き声もない。そこにあるのは、先輩の冷えきった表情と、凍りつきそうな私の吐息、涙。

    ほどなくして、先輩はブランコに腰掛け、そっと
    「いいよ。わかった。じゃぁ、そこに座って」
    と言った。
    先輩はカバンから手帳を取り出し、白無地のページを切り取った。鉛筆と消しゴムを持っているか聞かれ、私は素直にふたつを手渡した。
    「あ、ありがとうございます……」
    先輩と視線があう。
    上目でも斜めでもなく、正面から見つめられ、なんだか先輩の瞳に吸い込まれそうになった。
    私の顔を描くようだった。私には見せないように左手で隠しながら、鉛筆の音だけをこだませていた。音に飲まれてしまいそうなほど静かな先輩に不安を抱いた。このまま夕焼けに消えいってしまうのではないか。また私を置いてどこかへ行ってしまうのではないかという焦燥にかられた。
    風が吹く、先輩の一挙一動が葉のように揺らいだ。俯いて手帳の切れ端に鉛筆を走らせる彼女の表情は見えない。けれどそこには真剣な眼差しがあり、時折する瞬きがゆっくりなのもわかった。

    しばらくすると先輩が顔を上げた。
    「できたよ」
    見せられた切れ端には、耽美で、朧気で、辛気臭く描かれた、私の顔。
    「うま……」
    思わず声が漏れた。なぜならそこに中学時代の先輩の絵はなかったから。
    私に知る先輩の描く顔は、正中線がズレていて、頭部の大きさが足りなくて、首が病的に細い、そんな顔だったのに。
    今目の前の女性が描いた線はしなやかで、顔の凹凸から表情まで、細部にわたって繊細に描かれていた。講評会にかけてしまうと注意を受けるような点は多けれど、個人的な恣意的意見を差し引いても、決して下手と評される力ではなくなっていた。
    「1個、嘘ついたの」
    「え?」
    「高校ね、進学したのは普通科だけど、選択は美術だったの。まぁ、そりゃ〜美術科の君に比べれば時間は大幅に少ないけど、それでも一応、続けてたんだよ」
    そうなんですか……と、ありていな同意しか口にできなかった。続けていたことを嬉しく思う反面、先刻の先輩の態度の完全に美術を捨てたような仕草と矛盾を感じ、それらを咀嚼するのに時間を要した。
    「美大に行くのも考えたんだけどね。やっぱり親がダメってさ。……それに、君に言っちゃったし」
    「な……なにを……」
    「普通の高校行って、普通の大学行って、普通に……世の中が定める普通に嵌って生きていくって、もう言っちゃったもん」
    確かに、言った。
    夏休み最後の日、先輩は実質、その時点で以前の自分を卒業していたようなものだった。
    しかし、その自らの言葉を呪縛として抱えて3年間の高校生活を過ごしたというのか?私に伝えたその文言を守るために?そんな、禁忌でもない表明を気に病んでいたのだろうか?
    「そ、そんなの無視していいですよ!気持ちが変わることなんて当たり前なんですから……」
    「そういうわけにもいかないでしょ。それは二度目の裏切りになるからね」
    二度目の裏切り。
    一度目は、美術を続けたなかったこと。やめると告げたのに再開することは果たして裏切りと言えるだろうか。
    私が、あの時先輩を止められていたら、先輩は私を、否先輩自身の気持ちを裏切らずに済んだのだろうか?
    思考が混乱して、白濁して、血流が早くなるのを感じた。焦りというか、怒りというか、なんとも言えない混濁した濁流が押し寄せる。
    先輩の人生を狂わせたのは──先輩の人生を、先輩にとっての「正しい」に導けなかったのは──まるで先輩と私の共犯であるかのようで。
    無性に、腹立たしかった。
    「てか、それ以前にさ、」
    先輩は私に似顔絵を握らせながら口を開いた。
    「いくら前より上手くなったからとはいえ、最後まであいかちゃんには追いつけなかったな。これで諦めがついたよ」
    絵と、君と。

    ブランコに残された先輩の体温は冷たかった。こんなにも冷たい人間だったのだろうか。
    私の知っている体温は、もっと、暖かったはずなのに。
    「それじゃぁ今度こそバイバイ」

    「せん……ぱい……」
    きっともう会うことは出来ない。スマホに表示された連絡先に、静かに雫が落ちた。
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    Jinseifuseikai

    DOODLEアニメパロあいかの「先輩」との重シーンです
    これが結末ではない
    公園のブランコは、冬の冷気を吸い取って冷たい温度でそこに居座り、無邪気な姿は見る影もなかった。
    「あいかちゃん、学校ではどんな絵を描いてるの?」
    おずおずと尋ねる先輩に、私も渋々といった感じで作品の写真を見せる。デッサン、個人制作、高美展の制作……。それぞれに「かわいい〜」だとか「うまいなぁ」だとか感想を漏らしつつ、10点ほど見せたところで先輩は
    「へ〜すごい!見るからにでっかい絵じゃん!えーなに賞とったの!?すごいね!…………いやぁほんとに……」
    ──すごい。
    と、言った。
    スマホの画面を覗くために俯かれた面影から表情は読み取れなかったが、前髪の靡き方があまりにも哀愁に満ちていた。
    何か言わなくちゃ。私が、いや先輩が、このまま泣いてしまいそうだと、なんとなしに思った。
    「……先輩は、高校で何してるんですか?」
    「んー?私はバトミントン部に入ったよ。元々運動するのは結構好きだったし、始めてみると割と上達しちゃってさ〜うちのチーム、全国間際まで行ったんだよ!」
    顔をあげた先輩は意気揚々としていて少しほっとしたけれど、それが作り笑いなのは明白だった。
    「でも〜やっぱあいかちゃんには敵わない 3255

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