シャドシドを無理矢理捻り出したい ううむ…と僕は唸る。
何がどうしてこうなったのだろう。全然わからないや。
「どうした、シド」
「いやぁ…どうしたも何も…」
なんで僕の目の前に『シャドウ』がいるんだ。
超絶リアルな夢を見ているのかな?と思うけど意識はハッキリしているし、頰をつねってみたら普通に痛い。紛うことなき現実だった。
「分裂、しちゃった…ってことでいいんだよね」
「そうだな」
「……」
「………」
なんで??
確かに、いつの日かは『シド・カゲノー』と『シャドウ』が同じ空間にいる瞬間を作れるようにしたいとは考えた頃もあるけども。それは高速反復横跳びで影分身するか、シャドウガーデンの誰かを影武者にするかの2択だった。
でも、これは…なんというか。本当に『僕がふたり』って感じだ。まるで鏡と向き合っている気分である。きっとふたりでじゃんけんをしたら延々と続くくらい、僕らは同じだ。
「君はシャドウ、でいいんだよね?」
わかりきったことを問い掛けると、シャドウからは呆れの視線をもらった。
「この姿でシドと名乗ってもいいのか?違うだろう?そういう身バレは一番盛り上がりそうな場面でするものだ」
「さすがは僕、わかってるね」
だよね。「そんな…!あのシャドウが、シドだったなんて…!」的な衝撃シーンにする時は、もっともっと慎重に選ばないと。半端はダメだ。楽しみが減る。
「それじゃあシャドウ、こうなった原因わかる?」
「唯一の心当たりといえば、昨夜イータから差し出された謎の薬を飲んだだろう?十中八九あれかと思うが」
「ああ…そういえば」
ミツゴシにお邪魔して色々と新商品開発を手伝っていたら、タイミング良くイータが試作段階の妙な液体を持ってきたんだった。
望みが具現化する効果がある、とか言っていた気がする。その場ではなんともなかったから、空振りかとばかり。
「うむ…翌朝になって今更効果が現れた、と」
「そうみたい。どうする?」
「基本はお前に従おう。僕の根本はお前なのだからな」
「ん、了解。じゃあ取り敢えずミツゴシに行こうか。一応結果の報告はしとかないとね」
それにしても、『シャドウ』が僕の望みそのものか。まあ間違っちゃいないよね。『シャドウ=影の実力者』を目標に生きているんだから。僕の憧れをそのまま詰め込んだ存在…それがシャドウだ。
僕は隣を歩く彼をジッと見た。うん、自分で言うのもなんだけど…顔良し、声良し、佇まい良し。
この『シャドウ』はまさに理想の僕であり、我ながら正直すごくかっこいいなと思った。シャドウの時の僕ってこんな風なのか。いいね、どこを切り取っても理想の自分だ。惚れ惚れする。
断っておくが、僕は決してナルシストではない。あくまで客観的に見てこれなんだ。僕が考える最強の僕そのものなんだし、ベタ褒めしたっていいじゃないか。
「ミノル」
「…びっくりした。まさかそっちの名前を呼ばれるなんて」
「僕がお前だからこそ呼べる名だ。誰も知らない、ふたりだけの…な」
「いいねそれ。結構好きだよ、そういうの」
「ああ、わかっている。僕はお前だ」
「うん、そうだね」
前世に未練はない。僕は今にとても満足している。
だけど…ミノル、ミノルか…。忘れようもない、僕の真名。
「ねぇ、君が消えたら、僕をそう呼んでくれる人はいなくなるってことだよね」
「寂しいのか?」
「どうだろう。よくわからない。でも、他の人にこの名を教えようとは思えないかな。呼ばれるのは、君にだけがいい」
「ミノル」
「うん」
「忘れるな。光の裏に影があるように、僕もまたお前の傍にいる。ずっとだ」
「うん。300…いや、400歳を超えても一緒がいいね」
「そこは『死んでも』か『来世でも』と言ったらどうだ」
「それはちょっと主人公ポジ寄りのセリフかと思って」
「フッ…違いない」