陰の実力者は自分の影武者を作りたい! 僕は今日、長きに渡り実験を繰り返してきたアレを完成させるつもりだ。
それは…『自分をもうひとり生み出す』こと!
いつかシド・カゲノーとシャドウが同時に存在しなければならない時がくるかもしれない。その為の準備だ。
以前は学園で超高速反復横跳びをして影分身を作ったのだが、あれは凄まじい暴風が吹き荒れるので汎用性が低い。
なので本当に僕をもうひとり作れやしないかと、日々研究を重ねてきたのだ。
ジミナのようにスライムで人形を作って見えない糸で操り、腹話術してみたり。
実在するかもわからないドッペルゲンガーを仲間に出来ないかと、毎夜あちこち探して回ったり。
そうこうしている内に、僕はひとつの答えに至った。
自分の魂を半分にすればいいのだ、と…。
某魔法学校の小説でそんなのあったし、魔力がある現在ならやれなくないのでは?と思い立ったのである。
研究の過程でちょっと死に掛けたりしたけど、やっと無事に安定させることができた。
「やあ、君の名前は?」
僕は目の前に立つその存在に、そう質問する。
彼は柔らかい表情で口を開いた。
「シド・カゲノー。君もそうだよね?」
前世のカラオケ店でマイク越しに聞いた自分自身の声と、全く同じ音が彼の口からは出た。
「そうそう。成功したかな?」
僕が満足気に言うと、彼も頷いて同意してくれる。
「多分ね。前世の記憶もちゃんとあるよ。例えば…飼っていた犬の名前とか、今までやってきた修行内容とか」
「うんうん、いいね。じゃあ区別つける為に、君のことはミノルって呼ぼうかな」
「ん、了解」
「魔力の色が違う。君は赤なんだ」
「君こそ変わっているよ。青になっているね」
「ホントだ。丁度合わせたら青紫になる感じだ」
「なるほど」
「あなた…何者なの?!彼を何処へやったの!」
シドじゃないってバレてる〜!
でもすぐにネタばらしするのは勿体無いな。
「やだなぁアルファ。僕は僕だよ」
なので、まずは一旦とぼけてみよう。本物なのは変わりないし、僕が僕なのも嘘じゃない。
「その気持ちの悪い演技を早くやめなさい…。不愉快だわ…!」
「酷いこと言うね、本人なのに」
「答えなさい!彼は何処ッ!!」
殺気の込められた剣を首筋に当てられるが、僕は余裕を崩さない。
「んー、そうだなぁ…簡単に教えるのもなんだし…」
「知りたいのなら、我を倒してみよ」
全力らしいアルファには悪いけど、この程度の拘束はその気になれば即座に抜け出せるのだ。
「精進が足りん」
言いながらスライムを操作し、身に纏う。
「なっ…!?」
「似せられるのがシド・カゲノーの姿だけだと誰が言った?お前達シャドウガーデンの長たるシャドウにすら、我は成れるのだ」
だって僕も本物だもん。偽物呼ばわりされているけど。
「あなた…、シャドウの正体まで知って…ッ」
青褪めたアルファに、僕はフッと笑う。
流石はアルファだ!その素晴らしいリアクションに満点花丸をあげよう!
「では、ゆくぞ?持ち堪えろ」