誰かの恋 行きつけの喫茶がある。
落ち着いた雰囲気で、南方由来のコーヒーという苦みの強い飲み物や様々にブレンドされた紅茶、軽食やデザートなんかを置いている。
メリニは広いがコーヒーを置いている喫茶はここだけだ。遠方からの輸入になるため少し値段は張るが飲むと少しばかりツウになったようで好んで飲んだ。
ぼくは物書きをしている。とはいえそこまで有名なわけではない。
この喫茶はメインストリートから少し離れた場所にあるから、ものを書くにはちょうどよいのだ。
かしましく騒ぐ婦人もいないし、店のマスターは寡黙だ。いいのか悪いのか、客の出入りもそこまで多くはない。
時折ぼくと同じように喧騒を逃れてやってくるのであろう常連が何人かベルを鳴らす以外、あとはコーヒーや紅茶を淹れるこぽぽ……という音が聞こえてくるばかりだ。
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