あ、キス、される。
その手の勘は本当によく当たる。
すぐそこの碧眼がじっと見つめて、その色に感情が滲んで、それから、顎をく、と押されて。
あ、と思った時には熱い舌を迎え入れている。
見た目よりも高い体温に背中を、腰を包まれて、彼の思うがまま。
じっくりと。じっくりと。
舌を絡ませながら散々好きにしたと思えば少し焦らして、呼吸の限り弄ぶ。
レンズ越しではない碧色が綺麗だ。なんて思いながら浸るこの行為が密かに好きだ。
キスもそうだが、至近距離で見えるこの色が、とても好きだ。
やがて離れる唇に寂しさを覚えつつ、すっかり火照った頬を手で仰ぐ。表通りに出る前には冷まさないと。
そんなひとの努力を、センク協会三課様は簡単にぱぁにしてくれる。
何も言わず抱きしめられ、頭に吐息のようなため息がぶつかった。
「……このまま、離したくない」
貴方といたい。
ぎゅうと抱きしめながら告げられる想いに心臓が爆音を上げる。
顔から火が出そうだ。
彼からの素直な想いはいつも真っ直ぐで、回りくどいことをあまりしない。ゆえに想いを向けられる方はいつも翻弄されてしまう。彼が好きだから。
いつまで生娘のようなことと思うなかれ。これでもどうにか慣れようとしたのだ。
結果的にそれでも諦めざるを得なかった。そのくらい、彼のことを愛してしまっているのだろう。
……離れたくないなぁ。
「……そろそろ時間だろ。行ってこい」
けれどしかし、時間と仕事はそれを許してはくれない。
彼の胸を押して温もりから離れ、笑ってみせる。
「今日はそこそこ強敵だったか。気張っていけよ?」
「……相手が誰であれ、いつもと同じように相手をするだけだ。私の剣技は変わらない」
淡々と答えるムルソーに笑みが深まった。
そこには深い愛情を向ける恋人ではなく、これから決闘に臨む者がいる。
ああそうだ。お前はそうでなくては。
「勝ってこい」
きりりと引き締まる碧にエールを。
「貴方に、今日の勝利を誓う」
天を突く銀に祝福を。
勝者への花束は用意していないけど、ご褒美のキスはここに用意して待ってるよ。